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[コメント] ペンチャー・ワゴン(1969/米)

リー・マーヴィンクリント・イーストウッドの西部劇。アラン・ジェイ・ラーナーフレデリック・ロウのミュージカル。ジョシュア・ローガンの遺作(これはどうでもいいか)。名作となることを約束されたような陣容だのに、世間からは半ば忘れ去られた作だ。それも宜なるかな。という仕上がりなのだが。
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当時のイーストウッドは、すでに『奴らを高く吊るせ!』『マンハッタン無宿』など中規模作の単独主演こそあったものの、大作の主演スターとしては一本立ちしていない。『荒鷲の要塞』のリチャード・バートンともそうだったように、ここにおいても先輩スターであるマーヴィンとの競演からは、以後のイーストウッド主演作では味わえない二番手芝居の奥ゆかしい主張ぶりを愉しみたい。劇中ではほとんど「パードナー(パートナー)」としか呼ばれず、セルジオ・レオーネの三部作に端を発する「名無しの男」の系譜を引き継いでいるが、最終盤において役のフルネームが明かされることからも、イーストウッドのキャラクタ史において無視の許されぬ過渡期的作品と見ることができる。

タフでシリアスなイメージの強いマーヴィンにとってはいささか珍しい役柄で、これはやはり『キャット・バルー』あってこその造型なのだろう。さすがに『キャット・バルー』に較べれば酔いどれぶりは控え目であるものの、喜劇を演じても余人をもって代えがたい人材であったのだと改めて感じ入る。ラーナー+ロウの原作・音楽らしく前代的なミュージカル大作の趣きのある作品だが、マーヴィンとイーストウッドのバディ感には、アメリカン・ニューシネマの諸作と確かに同時代の作品でもあるということが妙に納得される湿度が認められる。

撮監のウィリアム・A・フレイカーにしてみれば、翌年に自身が初監督を務め、やはりマーヴィンが主演を張る西部劇『モンテ・ウォルシュ』の予行という側面もあったに違いない(『モンテ・ウォルシュ』の撮監デヴィッド・M・ウォルシュは『ペンチャー・ワゴン』においてカメラ・オペレータの任に就いています)。「西部劇が滅びつつある時代にあって、いかに西部劇を撮り、語るか」という問題について、失敗作と断じられても無理もない『ペンチャー・ワゴン』からフレイカーが学び取ったものは少なくないようだ。

さて、『ペンチャー・ワゴン』そのものに対しての評を記そうと試みるならば、マーヴィンとイーストウッドの両名をともに偏愛する男性俳優の十指に数える私にとっても、これは「美術」の映画であると云わざるを得ない。ロケ撮影かオープンセット撮影か惑う「名無し町」の大規模かつ精緻な造型が最大の見ものだ。そして、それを惜しげなく破壊してしまうクライマクスこそがハリウッド・メジャー・ステューディオの本領である。

(評価:★4)

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