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[コメント] 自分自身の眼で見る行為(1971/米)

主題をこれほど過不足なく的確に言語化した題名を持つ映画も珍しい。自分自身の眼で見る行為。ここで問題とされていることはそれだけしかないと云ってもよい。その問題を観客に生きさせるために、ブラッケージは徹底して醒めた眼と意識を持つことを強要する。
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「死体解剖現場の撮影」は決して奇を衒って選択された行為ではあるまい。「自分自身の眼で見る行為」が最も先鋭化され、その本質が抉り出される場とは何であるかを真摯かつ合理的に考えていけば、最終的に「死体解剖現場」に辿り着くというのはしごく当然なことだろうと思う。

確かにスクリーンの上で繰り広げられる光景はショッキングなものだ。思わず眼を逸らしたくなることもあるだろう。しかし、私たちはそれを正視しつづけなければならない。完全に無音と化した上映空間に逃げ場はないのだ。

現代社会のシステムはどうやら巧妙に隠蔽することに成功しているようだが、「死」は私たちのごく近くにある。そして当然ながら私たちもまたいずれ必ず死を迎え、「死体」に成り果てる。だから『自分自身の眼で見る行為』は「自分自身を眼で見る行為」でもあろう。ブラッケージは無言のうちにそれを示す。だが、この映画を見て私が思うのは「見ることのできる眼」を持つことの途方もない困難さだ。

(評価:★4)

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