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[コメント] 若き日のリンカン(1939/米)

一度聴いたら忘れられないジュー・ハープのユーモラスな(それでいてどこか悲しげな)響きは、『リオ・ロボ』のジャック・イーラムに至る映画記憶の旅へと私を連れ出す。
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フォードにしてはやや画面に厳密さが欠けるかと思いながら見ていたが、そんなことはなかった。とりわけ裁判終了後のショットはすべて完璧。ラストのふたつのショットはリンカーン像を後退しながら撮り、それを短いディゾルヴで繋いだもので、一般的なイメージからすれば「フォード的」ではないかもしれないが、これもまた完璧と云うほかない決まりようだ。

ヘンリー・フォンダの長い腕と脚を駆使した演出も目を惹く。椅子のかけ方などもそうだが、冒頭の演説シーンで頭上の柱にぶらんと手をかけること、あるいは丸太割り・綱引き大会も。ほとんどすべての映画には人間が登場しなければならない。そうであるならば、その登場する人間の身体性を活かした演出を目指すことが「映画」の核心に迫るアプローチとしては必須になるはずだ。そして「映画」の中心部を占めるに足る身体性を備えた人間が「スター」と呼ばれるのだろう。

また、フォードは「墓標」の映画作家でもあったのかもしれない。唐突なフォンダの墓参シーンを「斬新な驚き」などと云ってはさすがに贔屓の引き倒しになるだろうが、同時に忘れがたい名シーンであることも疑いない。「墓標」の映画作家ジョン・フォード、そう口にしてみるだけで、いくつもの印象的な墓標の画面が、シーンが、脳裏に甦ってくる。

(評価:★4)

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