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[コメント] ミルク(2008/米)

ゲイカルチャーの独立運動の一幕を伝記という形を通してなぞるだけでテーマの輪郭が不明瞭なSO-SO作品
junojuna

 その男、ゲイであるハーヴィー・ミルクの半生をゲイカルチャーの立役者として描く伝記映画であるが、ただその活動記録を時事的に追いかけただけの、ドラマとしてはありふれた描写に終始する展がりのない作品であった。ガス・ヴァン・サントは何を言いたかったか、商業ベースではここまでなのか、本作のレイティングがPG-12であることは皮肉ともいえる。ガス・ヴァン・サントの長編デヴュー作に『マラノーチェ』というゲイの恋愛模様を突き放して描いた佳作がある。そうしたフィルモグラフィを経てこの本作の出来ともなれば、明らかに映画の情動性を欠いた不振の作と言わざるを得ない。まず、ショーン・ペン演ずるところのハーヴィー・ミルクに生きるということと同義となる政治活動へ急進していく意味づけが華奢であり、劇中の起伏の大半が選挙活動の奮闘ぶりに集中されていることで、ゲイ個人であることのハーヴィーの葛藤提示が弱くドラマのダイナミズムは大きく不足していて躍動しない。自身ゲイであるガス・ヴァン・サントのハーヴィー・ミルクに対するシンパシーによって創造されたであろうことは判るのだが、彼自身ゲイとしてのマイノリティ意識が未だに強くあるのではないかと思わせる遠吠え的な帰結である。個人の性意識を超えたところで勝負しなければ本当の意味での「セクシュアリティ」は俎上に載らない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)甘崎庵[*]

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