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[コメント] アリア(2007/日)

滅びゆくものへの視線から生まれるクリエイティブ・サルベージという主題が哀しくも美しいGOODロードムービー
junojuna

 滅びゆくもの、失われつつあるものへの視線が静かに淡く浮き彫りとなり、声高に叫ぶことのない現代社会的価値観への警鐘となっている深く価値のある映画である。この映画は「探す」というテーマが重層的な構造の中に据え置かれ、それぞれに孤独を抱えた人物が、旅を通して出会う人々や自然との交感の中で再生していく物語は、詩的な寓意に満ちたランドスケープ描写を得て、実に芸術的な仕上がりを見せている。前作『美式天然』と同様、ここでも確認できる俳優への愛は、旅すがら出会う印象的なキャラクターとして、さらなる強度を見せている。ミッキー・カーチスの物腰など、国宝級の存在感である。そして、人々はみな実に優しい。だからその分、心を閉ざした太田の無表情や、カコの透明な存在感が、現代人、それは主人公に同化する鑑賞者の虚無的人生を痛切に浮かび上がらせることに成功して、映画の終幕と同時に静かな感動を呼び起こすのだ。老成の作家・坪川拓史監督が、その独特の世界観を余すことなく描き切るメジャーの舞台が用意されたら、これは恐るべき作品が生まれること間違いない。

(評価:★4)

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