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[コメント] 評決(1982/米)

誰が何と言おうと、フランクは最低の弁護士だ!
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







インフォームドコンセントという言葉はいまや日本でも一般的になった。 医師が特定の治療を行う際、患者やその遺族に治療方法を詳細に説明し、 同意を得たうえで治療にあたること。

命を預かる医師という仕事はもちろんだが、 兎角、クライアントになりかわって業務をこなす 代理業を職業とする者にとって一番大切なのは クライアントへの「説明責任」と彼らの「同意」である。 それは、広告代理店だろうが、保険外交員だろうが、変わらない。 クライアントの意向なしに代理業者は物事を推進してはならない。 ましてや、人の一生を左右する弁護士という職業においては 尚更その責任は問われるべきであろう。

だからこそ、ポール・ニューマン演じる弁護士フランクを 我々は決して勝者にしてはならない。 正義の執行者!?ふざけんな!

彼はクライアントに一切の説明もせず同意も得ぬままに 危険な裁判へと駒を進めている。 勝敗は問題ではない。 正義がどうとか、大病院である医療ミスの隠ぺいだとか そんなこと以前の問題。 人間が生業をこなす上で最も大切にすべき責任を この弁護士は果たしていないのだ。

結果的に勝利したからいいかもしれないが、 負ける可能性は大いにあった。 そうなった場合、あの妹夫婦と姉はどうなった? おそらく、姉の暮らしを支える費用も捻出できず、 自分たちの生活も立ち行かなくなり途方に暮れたことだろう。 そもそもクライアントの相談事項は 姉を治療施設に入れたいから少しでもお金をということであったはずだ。 最初に病院側から提示された20万ドルで型がついているではないか。

それにも関らず、フランクは独断専行で 危険な賭けにうってでる。

もし、あの姉の悲痛な姿をみて フランクの中に眠る正義とやらが目覚めたのだとしても、 もし、強力な証言者が現れて 裁判に勝利しより多くの賠償金額を獲得できたとしても、 まずは妹夫婦に状況を説明すべきだったのだ。 彼らからの同意をえて、初めて彼は法の代理人たる弁護士として 正義のために戦う資格を得るのだから。

脚本家シド・フィールドは言った。 キャラクターが何かしらのアクションを起こすことで、 そこにストーリーが生まれる。 そのストーリーこそが映画なのだと。

こんな間違った自分勝手な正義感を振り回す主人公が、 出来もしない計算をもとに突っ込んでいった裁判で 現実には誰も納得できないおとぎ話のような理由で あっけなく勝利する話に いったいどうして我々観客は感動できるのか?

どんなに監督の演出が素晴らしくとも、 役者陣の演技に熱がこもっていようとも、

キャラクターとアクションを疎かにしてしまっては 絶対に良い映画にはならないよ!僕はそう思う。

(評価:★1)

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