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[コメント] 青色革命(1953/日)

刺戟的なタイトルに何が出てくるか期待されたが鼠一匹、逆コースも共産党も嫌悪する者たちに残された現状肯定に何のシニックもないのは、そんなんでいいのかと思わされる。千田是也の肩にかぶりつく木暮実千代などコメディは好調だが善悪明快な物語世界で印象薄くなった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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何が赤色に対する青色かと云えば、止まっていた人生が進み出すぐらいの含意でしかない。力関係で浪人していた歴史学者の千田是也は、木暮を諦めで教壇に復帰する。講演旅行で「歴史とは失敗と悲哀」とか語っているが、彼の主義主張というものはそれ以外別に示されず、後半に教壇に戻りたくなったと示す熱意が奈辺にあるのかも判らず、だたもう一度若い人を導きたいと語るばかりで説得力に欠ける。「歴史は悲痛を繰り返すが人間には本能的な生命力がある」と演説するが、それがどうしたという位のことだ。復帰なって「若い人が待っている」と窓から陽光を眺めるラストは空疎という外ない。これではサラリーマンになれと薦める位のことしかできないだろう。大学の権力関係で干されて復帰という筋だが、公職追放解除で復帰した教授のように見える。

太刀川洋一江原達怡の兄弟は光クラブのような貸金業をやめて「真面目なサラリーマン」を志望するに至る。ものにした彼女にそう語りかけるのは『肉弾』みたいなもので、本邦資本主義のエートスはそのように戦中と共通するのだろうか。冒頭は親の脛かじってプロレタリア革命だとか、封建的だと兄・弟と呼ばず名前で呼び合っており、母の沢村貞子は共産党なんてハシカみたいなものと相手にしていない(兄弟の小遣い前借の申し出を共産党のストライキみたいと叱っているがなぜだろう。ストは共産党ばかりではないだろうに)、そして最後に沢村の云う通りになる。アップになった太刀川は語る、「学生らしい仕事ってなんだ、アプレだ破防法だ戦争になったら真っ先に鉄砲担がされる」。これ聞いて千田は教壇復帰を決意するのだが、この質問への回答を映画は用意できていないのだった。高利貸(トイチと云われている)が無届の貸金業法違反でオジャンという展開は当たり前過ぎるだろう。

加東大介は左派の選挙ゴロみたいな男で、千田に出馬ですか社会党左派ですか共産党ですかと煽り、最後は千田のライバル中村伸郎の担ぎ上げに成功する。そんな奴もいたのだろう。冒頭、五目並べ屋とタイトルにある大道詰将棋みたいな賭けが商店街で繰り広げられ、彼は中国人らしく、日本人ケチねとか云い、勝った千田に難癖つけて、親分の名前出した加東に黙らされている。左派のネットワークの末端に在日外国人がいたと云いたいのだろう。

面白いのはカネ目当ての芸者木暮との色恋で、「私に残された最後の青春なのだ」という千田の独白は悩ましく、加東と金儲け企む芸者の木暮はナイスな造形で、縁側にガムを口からペッと吐き捨てた口で、千田の肩に「男には憾みがあるのよ」と噛みつく。しかし、木暮はただの守銭奴に過ぎない。おねえ言葉を駆使する三國連太郎は達者な演技だが、ジェンダーを入れ替えたような男前の久慈あさみを巡る伊藤雄之助との三角関係は盛り上がらない。デートで信号のない渋谷スクランブルが映りふたりは『ナイアガラ』を観ている。ヴェーラのアナウンスは「あおいろかくめい」。

(評価:★2)

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