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[コメント] 忠臣蔵(1912/日)

尾上松之助三役、演じるは浅野内匠頭、大石内蔵助、清水一角。客が観たいのは松っちゃんだった。ユーモア描写連発はハリウッドの影響なのだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







基本、長回しの連発で、浅野の家臣との別れから切腹までを、フィックスの長回しで延々撮るのは緊張感がある(切腹の直前に次の件になるのは驚きがある。これは技法だったか、放映禁止の処理か、それともフィルムが切れただけか)。

松の廊下は斜めアングルが格好よく、切りつけるときにいいカット割りがある。一方、討ち入りは平板な構図。舞台っぽい雪が降る。最後の墓前報告が画面に背中の向けっ放しになるのはなぜだろう。墓の側から撮るのは不謹慎という判断があったのだろうか。

全体にスケール感がないのはスタジオの広さのためか、キャメラの撮影距離の限界なのか。貼紙が捲れるのは二条城の屋外スタジオに風が吹いたせいらしい。門や屋敷が画き割りになる件は舞台中継の距離感で撮られる。

松っちゃんはやたら泣く。浅野内匠頭は吉良たちに虐められて家臣にフォローされて手を眼の処に持っていって涙を拭う仕草が繰り返される。大石内蔵助も城明け渡しにあたって一人になってほろほろ泣いている。これが印象に残る。

一方、周辺描写にユーモアがある。これは以降のシリアスな忠臣蔵映画(パロディを除く)と差異のあるところ。大石の世を欺く放蕩三昧、忍者ふたりとの様式的な殺陣や、大石が橘左近に化けたら本物に逢う件が面白く撮れている。脇役たちは常にユーモアを忘れていないという演出がある。

風俗描写は面白く、早籠がリレーされる珍しい場面がある。それから、バス停のような処に駕篭屋が集団で屯している件がある(大石東下り)。現代のタクシー乗り場みたいなものだろうか。

鑑賞バージョンは国立映画アーカイブが鳥羽版、マツダ版、片岡版を再構成、復元したもの(2021年時点)。英語字幕付。製作は現在では特定できないらしく、アーカイブは1910〜17年頃としている。90分。二条城撮影所(横田商会)誕生111周年記念上映。

(評価:★3)

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