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[コメント] 嫁ぐ日まで(1940/日)

島津=原節子コンビの佳作。大作が多かったと云われる東宝期島津にあって短尺、コクはないが一筆書きによく描かれており。複雑な矢口陽子と冷静な沢村貞子がいい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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描写が重ねられるにつれて、矢口の死んだお母さん好きも、周囲がこれを批判する(忘れちゃったわ、と姉の原は云う)のも、双方とも病的に見えてくる。私的ベストショットは母の写真を奪還して自分の机で満面の笑顔でこれを見ている矢口。継母の沢村貞子だけがこれに理解があるのは、彼女が幼稚園の先生だったから(杉村春子との会話に出てくる)ということだろう。最初は固く、徐々に打ち解けてくる沢村の造形がとてもいい。そして沢村・原・矢口の三人の心理が交錯する件での短いカット繋ぎが印象的。終盤の逃亡はレコード店でタイトルの主題歌がかかっている、というのは少々宣伝が過ぎただろう。ここにもうひとつアイディアがあったら傑作になっただろうに、出てこなかったんだろう。

原にフラれてしまう大川平八郎が印象的。彼が留守番する原を訪ねると凧がふたつ上がっているのだが、そのひとつは不吉にも墜落して庭の植木にかかる。父と継母の見合いをチクった罰ということだろうか。このときの鼠捕りの件が素晴らしい。最後は裏口でやって来た猫に進呈するスリリングな動物使い、猫は鼠を捕まえるが喰わないという結論に達するのだった。梅見の梅に短冊がぶら下げられている風俗が優雅、この画もよく撮れている。最後に大川は昼から酔って英百合子の前で不貞寝して、花嫁姿の原の車を隠れて見送ったりしている。

原節子20歳、声のキーが後年より少し高い気がする。杉村春子の音楽教師はピアノを本当に弾いているようだ。空いたピアノを級友が弾いて歌う谷口の唄が上手い。矢口に頼りない説教する御橋公も好演。「お風呂沸かさなかったの」「燃料不足ですから」「違いない」という沢村との会話に時代が描かれている。一方でエクレアが登場する(エクレールではなくエクレアと云われる)。原節子が勧め、喰らった清川虹子は中身を膝辺りに落としてしまう。食べつけないと有りがちな失敗である。他にも矢口の英語の勉強、サンドウィッチ、映画『格子なき牢獄』、オポチュニストにロマンチストと、映画法施行後なのに洋風な意匠が飛び交うのは島津の抵抗なんだろうか。

(評価:★4)

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