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[コメント] がめつい奴(1960/日)

昔の喜劇は下層や身障者への露骨な差別を見せるときがあるが、本作の釜ヶ崎不人情など物凄いもので、近年の『焼肉ドラゴン』などとは似て非なるものだ。時代の違いを痛感させられた。別にいい時代じゃなかったよね。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭のナレーションで「大阪のカスバ、釜ヶ崎の暗黒地帯」と云われ、中山千夏の精薄もギャグにされる。笑いものにしていいのか、という躊躇が先に立つが、高齢の客は躊躇なく大笑いしている。ついていけないものを感じるよ。こういうのはドストエフスキー以前の作劇だろう。『太陽の墓場』『(秘)色情めす市場』はなぜ名作なのかは、本作のような通俗を基準に測ると見えてくるものがあるだろう。近年の『焼肉ドラゴン』なんか比べれば上手いものだと思う。

土地の登記書をやくざに売ってしまった森雅之を、騙された草笛光子が刺殺し、あんな悪い奴は殺されて当然だよとみんなが慰めるのをクライマックスにしている。このホテル解散のクライマックスは閃きがあるのだろう。悪い奴は殺して当然、という法のない神話世界に降り立つ体験をさせてくれるのだ。安西郷子の運命好転の占いでハッピーエンドというのも神話めいている。

撮影は冒頭の自動車事故を中山千夏がすり抜けるアクションが素晴らしい。扉の開け閉めではっとさせられるショットがふたつあり、ひとつは隠れていた森繁が見つけられて「ああビックリした」、お前が云うな、という件。もうひとつ、お寺の扉が閉まって開いたら草笛が立っているという件も彼女がすでに幽霊のようで印象に残る。ほとんどがセット撮影で風景の記録としての価値は二次的でしかない。「ホテル」のセットは『めす市場』に似ている。

目玉むく三益愛子はさすがの迫力。中山千夏とふたり並んで乞食で儲けるラスト(「貯金があったら乞食しちゃいかん決まりでもあるのかい」)も大笑いしている爺さんがいた。この爺さん、彼等の生活保護詐欺など当然と思っているのだろう。本作は舞台が有名で、キャストはずいぶん踏襲されているのだが、この映画からは舞台の良さを確認できなかった。

(評価:★3)

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