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[コメント] 富士山頂(1970/日)

当時よくあった、困難な現場撮影に挑んだけど映画にあんまり生かされていない残念作。見処は勝新佐藤允のブルドーザー対決。鸚鵡は鳴かない(あれは富士山麓)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







富士山気象レーダー設置工事の話。5時間前に判った台風情報が20時間前にキャッチできるようになると気象庁の宇野重吉が入札時に説明している。タイトルの次に「協力 三菱電機株式会社」続いて「協力 三菱重工株式会社/大成建設羽生式会社/朝日ヘリコプター株式会社/気象庁」。

省庁(ここでは気象庁)の大蔵省主計局への予算要求の描写が興味深い。主計官神山繁がデンと中央にいて両側に部下、説明側は10人ほど相対して分厚い資料を持参、信欣三はやっつけられて同僚に抱きかかえられ、何と出番はこれだけ。

裕次郎たちは冨士登山の地質調査。できていない地盤調査を裕次郎の会社が公然の内緒で独自で行っている。これはいい加減な話で、当然に対価を払うべきだ。この調子では会計監査院も見逃したのだろう。

そこから話はこれを誤魔化すかのように、なぜか分割発注に横流れする。芦田伸介が命令系統の統一された一括受注、一社落札で行くと業者に告げると、他業者の中谷一郎から、それでは我々に談合しろと云っているのと同じだとクレームが飛ぶ。これが意味が判らない。競争入札が即ち談合ではあるまいに制度が違ったのか。他者は白票入れたとナレーションが入り、最後は芦田は政治により左遷されている。よくこんな話に気象庁は協力したもので、これだけは好感。新田次郎は骨のある話書くものだ。

現在最高処のレーダーは2400m(米)、富士山頂の工事は余りにも未知の問題が多過ぎますと説明する裕次郎に、社長の東野英治郎(!)は何としてもやれ、これは社命だと云い渡す。これぞ本邦全ての開発映画、プロジェクトXが共有する高度成長のエートスである。

(戦前と同じく)機材は馬で、七号八尺からは人力(強力)で運び上げられている。勝新佐藤允の暑苦しいような対決は涼し気な富士ロケにちょうど良かった。しかしこの、ブルトーザーでの登山、たいへんそうだが大して迫力のある画にはならない。

高山病は慣れる以外なく薬は駄目と云われている。労務者が病気にかかって逃げてしまって山崎努が探し回るという件は、労働条件を現場に連れてくる前に事前に説明して納得させなければならず、労働者は軽視されていたのだなあと思わされる。これはリアリズムではなく映画製作者の頭のなかのことだ。

ヘリでドーム空輸とか台風直撃とかのクライマックスは、サスペンスを求める演出が空疎。成功して無事に決まっているからである。進路を阻む乱気流などが表現できていないのもキツく、これならアニメのほうがいいくらいだ。

星由美子はもう中年のような化粧している。雨続きで工程が遅れるのに、山の神の祟りだと云う田中邦衛は愚か者のコメディとして描かれている。タイトルに「エグゼクテイィブ プロデューサー 小林正彦」という役名が既に表記されている。

(評価:★3)

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