コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 暁の脱走(1950/日)

縦縞パジャマの可愛い若山セツコ追い回し、そんな細い腰では日本男児を産めんぞと最低のセクハラ発言をしてゲヘへへへと好色に笑う副長小沢栄。彼の名演はいつも観客に殺意を抱かせる(含原作のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







城塞(県城)の駐屯地がリアルでいい。リメイクの『春婦伝』よりずっと立派だ。どこまでセットなんだろうか、リアルな陽の光。中国人が売店を出していたりする。兵隊たちが酒呑んでバカ騒ぎして歌われるのは ♪ツーツーレロレロで、この歌本当に流行ったのだ。補充兵は人殺しの軍人ではない、という実に興味深い発言が聞こえたりする。そんな切り口の対立もあったのか。

山口淑子は「蘇州夜曲」をハミングする件があり、本作は彼女の私映画の側面があるのだというこれは告白だろう。この人の人生をどう思うかは人によるだろうが、切実なものは感じられる。池部良に歯型つける激しい描写は彼女を吸血鬼に見立てるのだろう。これは慰安婦の情交濃厚な原作を踏襲するもの。

交戦中に乱入して池辺探し出す山口、寝転んで故郷の祭りのお囃子の幻聴を聴く。この件、リメイクの清順『春婦伝』でも出てくるのだが、あちらでは祭りの光景が無音で流れる。ふたつで一組になっている。この呼応関係は清順の意図だろうと思われる。

八路軍の捕虜になるふたり。「欧米では捕虜になるまで戦った兵隊は尊敬される」と協力を求める中国のバイリンガルが云う。バカな池辺は断り、日本軍に戻り(中国が簡単に返してしまうのはなぜなんだろう)当然に戦陣訓により軍法会議、営倉入れられる。

そして脱出の終盤。まずふたりで死のうと手榴弾投げてこれが不発、というじりじりする時間帯の、どこにでもありそうな納屋の裏側みたいな光景が素晴らしい。運命はふたりをもう少し生かしておくことに決めた、という運命のニュアンスがある。これが私的ベストショット。なお、原作ではこの手榴弾が爆発してふたりは死ぬ。

そしてここからオリジナルとばかりに、映画はふたり以外の者を遅まきながら活躍させる。営倉番の憲兵は交代時間ギリギリまでふたりが逃げる時間を稼がせる。彼は池辺が殺されるのはおかしいと思っているのだ。

城門を出る中国人に紛れるふたり。ここで最初からいた中国人たちにもキャラクターが与えられる。日本兵を怖がり、豚を殺されて怒る。小沢の乱射。その小沢に銃を向ける兵隊たち。彼等に映画は良心を認めている。ただ、悪漢小沢に悪を表象させすぎて、組織暴力の指摘を欠く憾みは残った。広い広い大陸の荒野で撃たれて倒れるふたり。映画が終わっても黒画面に音楽が鳴り続け、無念だとふたりと追悼している。

ヒロインは原作「春婦伝」ではコリアンの慰安婦だが、原作にGHQの検閲が入り、本作は日本人の慰問歌手に変更されている。清順『春婦伝』は慰安婦の話に戻されるが、主人公が日本人(コリアンの慰安婦も登場する)に変更されている。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。