祭りの晩に境内の後ろで盲人に導かれて繰り広げられる寸劇は『ツィゴイネルワイゼン』そのもの。失点は女性の配置で、ふたりもいらなかっただろう。男が純朴なほうがこうした劇は引き立つのではないのか。和泉雅子は白い傘だけ進む林の件、野川由美子は風呂場での色仕掛けの件と、どちらもいいショットがあってもったいない気にさせられる。和泉の「牛乳はうちが呑みます」という科白がとてもエロくて魅力的だった。

物語は山内賢が多々良純のぐうたら親父と終盤、とつぜんに心を通わせる展開が素晴らしい。八尾中学校が舞台。三高進学の井上靖みたいな話かと思いきや、山内はドロップアウトして「中学校中退」の履歴でさっそうと船乗りになるのが魅力的。佐藤紅緑の青春小説でそんなものを読んだように思うが、清順はやはりこの時代の人だなあと思ったことだった。