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[コメント] アメリカの悲劇(1931/米)

ボートの件、女は斜めを向いているのだが男は真正面を向いている、という切り返しがすごいんだ。小津は本作を観て、真正面から撮る異常さを発見したのではないのだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







シルヴィア・シドニーはここでも抜群で、フィリップス・ホームズにキスされて驚く顔が驚き以上の曰く云い難い表情に深まっていく表出が素晴らしい。私的ベストショットは水面に転覆したボートと浮いた麦藁帽子、という幻影が現実になるショット。男女が並ぶバストショットに落ちる木陰の不気味さも、男の帽子から白目だけがギョロリと覗くショットもすごく、ドイツ表現主義系列なんだろう。そも、襟にハンコ押し続けるという単純労働がすごい。クレール=チャップリン的認識が共有されている。いまの非正規労働では、大企業が街頭で配る詰め合わせセットを大量に封入し続けるだけのバイトなんてあるらしいが、こんなものだろう。

本作はトーキーの裁判ものとして初期作品に属するのだろう。冒頭の母「悪い友達と付き合わないで」子「友達は彼等しかいないから仕方ないんだ」という会話が呆気にとられるいい台詞。本筋は「殺してはいないが助けなかった」が殺人か(どこまで殺人か)が問われているのだろう。この点余り問題が浮かび上がってこなかった憾みはあると思う。細部だが、傍聴席で「殺せ」と叫んだ傍聴人を裁判長が即座に留置・罰金刑に処する件が好きだ。庶民が先入観で殺人を叫ぶのは今も昔も変わらぬ光景なのだった。OPの水面の表現も決まっている。

(評価:★4)

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