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[コメント] 婚約指環 エンゲージ・リング(1950/日)

女から男へのボディタッチの映画。軽いコメディ描写で繋ぐ『お嬢さん乾杯』タイプのユーモアでもって、ふたりのボディタッチはごく自然に積み重ねられる。戦前にはあり得ない描写なんだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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最初は満員バスのガタゴト道で何度も田中の膝に尻もちつく三船という掴み。貴金属店で絹代は三船の肩に両手をかけ、路上で腕組みをし、海水浴する三船に背後から触れる。そしていろいろあって、ふたりは宇野の泳ぐ海岸と駅で二度、さようならと手を握る。「膝のうえで泣かせてくれ」という三船のタッチの依頼は絹代に拒否される。一方、七年の結婚生活のうち六年は寝たきりと云われる肺病の宇野重吉とは前半に頬へのキス、後半に接吻。

このように映画は、新時代の恋愛には男も肉体美の魅力が必要なのだと裏メッセージを送り続けている。絹代の投げキッス事件でのバッシングで有名な作品だが、このアメリカ的価値観への拒絶反応もあったのだろう。しかし一方、抑圧されていた女性の需要に応えた面があったと思う。40年代後半はバタ臭い不倫映画がとても多く、ミゾグチだって撮っている。この延長線上に、本作の女性目線は成り立っていると思われる。

最初の到着は桜並木の春で、それから海水浴をしているのに、ふたりの熱海途中下車での告白の件で背景に桜が咲き乱れているのはおかしいのではないか。それともあれは桜ではなかったのだろうか。どもあれこの本音のぶつけ合い、「貴女のなかで騒いでいる血潮を僕は認めるんです」なる殺し文句は「どうかしていたんだ」と「大人になりましょう」撤回され、これが二往復(一往復半か)されるが、宇野らはこの撤回前のアクションを感づき、覚えていて疑念を抱いて無謀な海水浴事件に至る。こういう時間差の活用はメロドラマらしい手法。旅館での三船の告白の前の長い長い間がとても印象的。

本作は小物使いが徹底している。結婚指輪はふたりの逢引では宇野の元に忘れられ、終盤では絹代の指に戻される。和歌の詠み合い。三船の運動靴は絹代のプレゼントした革靴に変わり、最後の駅舎では運動靴に戻る。指輪は靴もボディタッチの延長として捉えられているだろう。

漁港の風景描写はとても美しく、「RAILROAD」「CROSSING」と斜めに×のある踏切や、埠頭が斜めに陥没しているここから子供たちが飛び込む(三船も尻から飛び込む)海岸がとてもいい。

窓の外の流しは熱海ブルースを歌う。この件は『日本の悲劇』で繰り返された。ビールの王冠に何のガラもない。薄田研二が並べている碁石は実にいい加減。マイナーなマーチ風の音楽はイマイチと思う。フィルムセンター所蔵フィルムで鑑賞。OPタイトルと登場人物紹介は欠落していて、あとから付け足されたフィルムが音楽もなく流された。

(評価:★4)

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