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[コメント] 熱風(1943/日)

増産に右翼も左翼もない訳で、山本薩夫はロシア・アヴァンギャルド伝来の手法でお仕着せの増産映画を実に適当に物している。藤田進原節子とは戦時映画の大物対決の図。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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不調の溶鉱炉の運転に賭ける人々。藤田進「気合が入っていないから怪我をするんだ」原節子「職場での怪我を気合だなんて。神憑りのようなことで解決がつくのでしょうか」藤田「そんなことは判らんが、できない仕事なんてのはない。できない人間がいるだけなんだ」そんなこと云ってもあんたの溶鉱炉は数字が悪いワと、原はあとで反撃したりする。最後は藤田は原を押しのけて花井蘭子の元に駆けつける。何かゴチャゴチャしている。

敵米英との生産戦。増産が絶対必要。新記録月間。この忙しいのに原は沼崎勲と海岸でデートなどしている。仕事一点張りの上司には従えんと叛乱される藤田は彼等に好きに殴らせて「俺の気合が判ったか」。部下は涙ぐんで従う。ドラマとしてもバカバカしいもので、実に軟弱なプロレタリアートである。

糞詰まりになった溶鉱炉。ダイナマイトを仕込めと溶鉱炉の神様菅井一郎。上層部に内緒で藤田と実施。菅井の転落は高齢から眩暈がしたためということか。しかし爆発しないダイナマイトの展開は映画的に地味。階段落ち用みたいな階段の真上に手術室がある病院の美術は無茶だろう。泣いている藤田を弱虫と叱咤する原。「死体を踏み越えて行けと仰っていたのよ」。

失敗したら犠牲者の出るダイナマイト使用を禁じる監督者沼崎。社長も部下もダイナマイト使用に傾き、徐々に孤立し、推進派藤田と殴り合い。そしてふたりは微笑み合う。殴って和解の好きな映画である。そして監督者の矜持はどこへやら、ダイナマイト使用を認める。そんな神憑りみたいな労務管理でいいのだろうか。そして当然のように全ては気持ちよく解決するのだった。

撃ちてし止まむ情報局国民映画。増産映画というらしく、各映画会社に割当の指名が下った由。冒頭10分ほど科白なしのシーンが続き、モッコ担いだ人足の列やら(花沢徳衛が見える)、戦艦の戦闘やら、製鉄所の作業風景やらが並べられ、サイレント時代の前衛映画のようだ。増産賛美の映画の記憶が回想されたのだろう。八幡製鉄所は規模箆棒でどう撮っても画になり、夕暮れに出会う藤田と原というシーンが印象的。中盤には戦艦の竣工や、ぞろぞろできる戦車の画もある。お寺の鐘まで供出させられた金属はここで溶かされていたのだろう。

なお、古川隆久「戦時下の日本映画」(吉川弘文館)によれば「工員の気風が相当殺伐に見える」「われわれを侮辱し工場を誤まるも甚だしい」と当時の製鉄労働者からも批判があがり、大日本産業報国会からも批判された由。

(評価:★2)

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