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[コメント] 明日をつくる少女(1958/日)

慎ましやかな物語で、慎ましやかな桑野みゆきがとてもいい。タイトルも慎ましやかな原題「ハモニカ工場」のほうが良かったのにと思う。荒川ファンも必見。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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小さな木造のハモニカ工場。大部屋で鳩目とネジで組み立て、4つに区分された小部屋で調律のチェックをしている。小学校に隣接していて、子供らにハモニカ合奏する件があり、ここはセットだが感じいい。昼休みは小さな前庭でネット張ってバドミントンと、後半は流行ってきたのかフラフープ。小島バンドという商品名。社長が殿山泰司で技術主任のような職員に伊藤雄之助。ドイツ製クロマティックを伊藤が職員に吹いて聴かせる件は、いかにもいい音の演奏。

11月30日という誕生日だけしか判らないラブレターが届く。山本豊三は誕生日に向けてプレゼント買おうと残業。技術者の若い男たちは、組合のない職場は駄目だ、抜駆けで自衛隊を受けた(結局落ちている)と喧嘩している。空箱が大量に積み重ねられた空き地での喧嘩。踏切傍の天ぷら屋、残業する山本のために桑野みゆきは巨大なかき揚げを作る。ラブレターはいつともなく桑野からと判明している。うすうす感づいているという時間帯がいい。

桑野は山本に夜食の卵うどんを運ぶ。卵うどんは世界一うまいと語り、卵ひとつを家族で分けた思い出話をする。卵をまるまるひとつ食べると胸がキュンとすると語る。何という慎ましやかさだろう。殿山はドラ息子に、学生が酒煙草を呑むのは大嫌いだと怒っている。

渡辺文雄瞳麗子は早朝の待ち合わせに東武線堀切駅の構内を使っている。朝いちばんの電車の時間になると駅員が改札のチェーンを外して客が入ってくるが、チェーンを跨いで中のベンチにいてもお咎めなしなのだ。何と大らかな時代だろう。そんななか、彼女の見合い話を知らずに渡辺は将来を語る。「今は泣くなよ、そのうち台所でうんと泣いてもらわなきゃならなくなる」。この日、彼女は云いだせず、黙って田舎の商店に嫁ぐ。最後に嫁ぎ先で幸せにやっていると手紙が届いている。

荒川沿いの大きな水門に桑野と山本は昇る。荒川が広がり、細い中洲が見え、遠くに海が見える。四本煙突も登場する。ラストは小箱に「好き」と書かれた桑野の告白。このラストは画期的ではないだろうか。ハモニカ盗難の原因はじめ、工場内外に小問題は山積しており何も解決の見通しはないのだが、全部ひっくるめて「好き」で世の中廻るのだと主張している。だからモノクロ、グランドスコープ。

(評価:★5)

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