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[コメント] ミカエル(1924/米)

美に憧れる画家は孤独、美は自足し彼に見向きもしないが、画家は美を求めざるを得ない。嗚呼ウィーン世紀末。ドライヤーは『あるじ』同様、まだ個性的とは思われないが、一部に後年の傑作を想起させる空間処理があり、そこだけが生々しい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ミカエルウォルター・スレザックは画家志望だったが、描けなくなった巨匠ゾレベンヤミン・クリステンセンにモデルとして雇われて同居する。ゾラはミカエルの画だけが評価される。ミカエルはモデルに自足し豪邸の居候として羨ましくもダラダラ暮らしているが、それは自らの美が失われると同時に失われる脆い幸福。同性愛志向で耽美的。余りにも世紀末的。スレザックはこのときもハッとさせる美男子。

金が必要と噂のロシア夫人ノラ・グレゴールがゾレに肖像を頼んでくる。彼女の刷毛の大量についた異常な被り物も世紀末なのだろう。ゾレは描けず三日寝れず、「彼女はいないときには見えるのに、いると見えなくなる」と素敵な科白を呟く。夫人と色目を交錯させていたミカエルは、ゾレに頼まれて夫人の眼を描くと肖像は完成する。画は眼だけが絶賛される。ゾレがミカエルの才能を抑圧していた、ここで復讐されたというイロニーなのだろうか。

ミカエルは屋敷を出て放蕩。ピストル決闘して負けた相手が十字架の石の横で死ぬショットが即物的で恐ろしい。こういう断片はいかにもドライヤーらしく優れている。劇伴はどういう意図で入れられたものなのか、音楽がふっと途切れた後も俳優がアクションし続ける長回しショットが何度か現れ、『奇跡』が想起され、突然に緊張させられる。

ゾレは表彰され、「画家の孤独と国家の栄光に」と乾杯の音頭が取られている。孤独が売り物の芸術だったのだと映画は画家を皮肉交じりに憐れむのだろう。ミカエルは金ほしさに画を盗みに入るが、ゾレは「画は彼にやったのだ」と許し、売られていた画を買い戻したりしている。「勝利者」というミカエルの裸体を描いた大作、黒布が陰部を空々しく覆っているのは空々しい。

暖炉がぼうぼう燃えすぎの晩にミカエルへの相続に署名するがミカエルは掴まらず、ゾレは死ぬ。ミカエルは夫人と同衾していて夫人のアップで映画は冷淡に終わる。「今なら平穏に死ねる。真実の愛に出会えたから」という冒頭の思わせぶりな字幕は、ゾレのミカエルへの同性愛だったのだろう。

(評価:★3)

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