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[コメント] リンゴ園の少女(1952/日)

そよかぜ』のおもいっきり二番煎じ企画だが、「りんご追分」のヒットで有名になった。本筋はこの頃の邦画にやたら多い歌手志望話で平凡、しかし見明三井の出鱈目選挙は面白い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







小園蓉子の先生の仲介で美空ひばりは主題歌唄って、作曲者山村聰に認められる。しかしひばりがどうやってこの歌を知ったのか、よく判らない。誰でも知っている歌だったということのようなのだ。しかしそれは美空ひばりの唄で有名になるのだから、作り手の山村がそれを知らないのはオカシイ。このオカシサを映画は宙吊りにして進む。

頑固な祖父高堂国典がひばりに歌を唄わせないという童話の意地悪爺さんみたいな役処。山村聰と会ったと聞いて脚立ごと転落したりしてる。それもそのはず山村聰はひばりの実の父親。歌手志望で山村に嫁いで亡くなった高堂の娘の顚末に係る山村の告白で高堂しんみりして、ひばりの唄を認める、という有りがちな展開。しかし妻の死が戦争と聞いて、当時の観客はこの物語を空々しいとは思わなかったのだろう。

面白いのは選挙。見明凡太郎は選挙活動中。選挙活動の風景があり、集団で自転車に乗ってメガホンで叫び、横断幕取り付けたダンプのうえに大勢が立って叫び、ラッパスピーカーで集会所の外に叫んでいる。「〇〇をお願いします」というフレーズは当時から変わらない。見明の選挙参謀は三井弘次中村是公という落選確実の豪華版。三井は次点と告げるラジオ放送に「次点で当選だ」とバンザイする。選挙結果は(選管ではなく)新聞社の前に棒グラフで掲示されている。この光景は別の映画でも観たことがある。

選挙期間中、高堂は見明からの協力見返り、品評会での取引を断って語る。「選挙ちゅうものは人を拘束してはなんねえ。もっと自由に、いい人間を選ばねばならない」。いいこと云っている。ひばりはりんごで「公平センキョ」と並べて見明を揶揄っている。後半はふたりのりんご品評会での対決という漫画的展開。三井はひばりのリンゴ盗難を止めた自分の息子と殴り合いをしている。ろくでもない父親もあったものである。ひばりはモンペになって農薬をりんごに散布している。三井が転んで薬剤ひっくり返して調合のへんになった農薬を撒いてしまっているのだが、なぜこれで品評会に勝ち上がるのかよく判らない。

主題歌の作曲家山村聰は十和田湖に旅行する途中に見明の選挙事務所に引っ張ってこられて、宴席で挨拶しろと云われて憤慨しているが、それなら席に座る前に断ればいいのにと思った。この宴席でとんでもなく上手い津軽三味線が聴ける。弾いているのは有名な人なのだろう。十和田湖が登場し、個人的にはナルセ『乱れ雲』の舞台なので嬉しい。♪こだまは歌うヤッホーと十和田湖でボートに乗ってひばりが歌う気楽な「こだまは歌う」が素晴らしい。「おら、東京へ手紙かくべし」みたいな判りやすい青森弁も妙に印象に残る。

(評価:★3)

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