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[コメント] モダン道中 その恋待ったなし(1958/日)

上映作品を横から延々批評し続ける岡田茉莉子のスマしたナレーションが素晴らしい。「タイトルを見ているのは退屈なものでございますね」「ここまでがロケーション、ここからがセットでございます」。悪ふざけが過ぎて監督は干されたらしい。現代ならもっとやれの世界。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







テレビで宝くじの発表があったのだ。「パントマイムで進行します」で賞金当たったのを知って無言でバーのスツールごとひっくり返る銀行員佐田啓二。後半に月給18,000円、朝は牛乳だけで昼はメザシと語るが銀行員はそんなに貧乏だったのだろうか。周遊券に5,450円もかかったとボヤく高橋貞二は切符拝見に来た国鉄マンに儲けているならストするなと絡んで「明るく楽しい松竹映画」とテロップが出る。周遊券仲間のふたりの東北、北海道珍道中。

岡田と宇野賀世子の姉妹と合流。溜めたカネでブルジョア旅行しているが岡田はデパートガールと途中で発覚する。だから男ふたりが広げる握り飯を猿蟹合戦でしか知らないと驚いてみせるのも嘘な訳だ。いろいろあってデパートの北海道支店長多々良純に招待をばらされ、首にするぞと脅されて組合の機関紙に女遊び書くぞと反撃している。いまのデパートに組合機関紙などあるんだろうか。

弘前、「この町の人の良さは独特」と二日酔いの佐田に、薬屋の婆さんは苦しむのが最高のクスリと酔い覚ましを売らないヘンなギャグ。円太郎馬車の客引きする桑野みゆきのモンペ姿は驚異的で時代遅れの哀愁に溢れている。彼氏はタクシーに転職したと怒っている。男二人乗せてやたら真面目に観光案内、「十三(とさ)の砂山」なるご当地の民謡歌い、「歌い手は桑野みゆきさんでした」と岡田の笑わせるナレ。惚れた高橋が不思議支柱とかいう石柱に挟まった輪を回して、回転が止まるときに戻らなければ願いが叶うという文化財が印象的。ここで高橋はさっそく求婚。

桑野はひとり暮らし、家族は北海道で開拓部落と語っている。後半、札幌時計台で「ばったり会えたらね」「そんなメロドラマみたいにはいかないわよ」と語る岡田姉妹に再会寸前の佐田高橋の前に桑野が割り込むメロドラマのパロディがある。桑野の高橋は父の三井弘次に認められる。ハワイ在住アチャコ高橋とよの息子との見合いに息子が来ず、それなら高橋を養子にして息子として付き合わせよう、という論理的ギャグによって頑固者三井が参ったと云う。

岡田の前にブルジョア息子の永井達郎が登場して「お話もライバルが現れた処で中盤戦」。ナメクジの天ぷらみたいという妹の評が実に的確な造形。最後は捨てられるのだが、彼が案内するのが白老や登別温泉でアイヌ人が登場。ドキュメント風に人口一万人だけと語られ、黒く長く口紅つけた老女が映され、このような人はもういないとの解説。踊りは一人三千円と説明のうえで輪になって踊るのを見て、妹は見世物みたいと批評し、岡田と永井は滅びゆく民族の郷愁とバカップル風に評する。温泉でも民族衣装着たアイヌ人が一緒に写真写すと50円と商売している。また寸劇で「アイヌ勘定」、金数えているときにいま何時と語りかけて、「三時」「四、五」とスキップする式のものをそう読んでいる。買う日本人もズルしているからアイコというオチ。

これらアイヌ関連は、アイヌ民話にも詳しい気障な永井が案内したもので、佐田は丘の中腹で湖の絶景見てこれが見たかった、永井の案内はインチキと語っている。商業化したアイヌがインチキということなのだろう。この描写はいま観ると微妙な処があり、差別的と取られても仕方ないだろう。当時としてはドキュメント部分も笑いにしていたかのかも知れない。この件は、佐田岡田が熊見て気絶するとアイヌ人が紐持って散歩していたというホノボノしたギャグは、観光化以外は笑いにはしていないと云っていると思う。

スリの桂小金治と彼を東京から追う刑事坂本武。最初に佐田らの寝室に泥棒の格好して入った小金治なのに、次に会ったとき佐田らは何も警戒していないのは、あえて作ったツッコミ処なんだろう。佐田高橋がヌケているのが強調されている。八戸は蕪島(ウミネコの繁殖地で有名らしい)でのヌード撮影会、小金治は褌一枚で山下清の真似して意味なく登場し、撮影会はいつまでも追いかける坂本に逮捕され、「芸術と猥褻の限界は難しい」と岡田は真面目に指摘する。チャタレー裁判の結審は前57年。全員が酔っている青函連絡船の客室という壮絶な描写のなか、小金治が坂本を看病。最後は小金治が坂本の停年を憐れんで捕まり、「ちょっとウェットな終わり方でした」と岡田が反省しているが、観客も後半もっと派手でもいいのにと思うに違いない。老境の坂本はちょっと頑張り過ぎに見えた。

バックバンドがドラム叩く宴席で狂ったように踊っているのが清川虹子。「我々には最高裁がある」と云う高橋をナレは「どこかで聞いたような科白」と突っ込む。『真昼の暗黒』は56年。岡田はラストでモニターとマイクのある録音ルームからキャメラ目線で自己紹介している。真面目に喋っていること自体が冗談というナイスなニュアンスが素晴らしかった。このノリは現代的で、彼女以前の基本真面目な女優たちにはできなかっただろうと思わされた。

(評価:★5)

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