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[コメント] 美はしき出発(1939/日)

母の曲』よりさらに拡大されたヤマサツ流ブルジョアいびりの初期仕様だが、戦中には「贅沢は敵だ」の要請と合致もしたのだろう。原節子肉付け不足の欠点は明らかだが中編だからしゃあないのか。見処は凸ちゃんのスケートと水町庸子の暢気な母さん。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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父はなく兜町の叔父の資産運用で優雅に生活しているブルジョア一家。叔父清川荘司の会社は倒産して彼は新規まき直しに大阪へ去る。母水町庸子は叔父を当てにして相変わらず暢気に暮らし、兄三木利夫は戯曲執筆、姉原節子は画業に専念。妹だけが事態を憂慮してスケートで知り合ったサラリーマン月田一郎に相談、彼は家に乗り込み、みんな働こうと改革案をぶって反発を買ったり色々しているうちに、叔父は上京して金策成功、もう心配ないと告げて一家は元の安穏生活に戻るが、姉だけは画業のために生活が必要と悟るのだった、という話。

月田の家庭への介入はやや不自然なのだが坊ちゃん型の人物なのだろう。百人一首に短歌にSPと多趣味に忙しい水町は、ピンチになると心気亢進で倒れるがすぐ復活、特技の生け花の教授をしたらと薦められ、月田らが会社で昼飯奢って集めた女子職員相手に生け花教室一回目、生け花の精神は夫唱婦随と訳の判らない論をぶってさっさと切り上げ、私はこちらのほうが得意とみんなで百人一首を始める。

勝手口に詰め寄る出入りの請求に目を回すお手伝いさん(何て女優さんだろう)も漫画みたいでオモシロイ。兄の戯曲執筆、懸賞応募失敗はイマイチだが、業界の内輪噺と見れば興味が湧いた。

一家は最後は窮乏で絶滅するかと思いきや、叔父の復活で元通りになるのが皮肉で、裏返したヤルセナキオというタッチが新鮮だった。清川はもう安心、好きなことをおやりと語り、就職する積りだったのか、アッハッハとにこやかに笑うのだった。

原節子はツンツンした造形で、職探しするものの給金が不満。マネキンなら一日1円50銭と云われて馬鹿にしているわと怒っているが、自分も絵のモデル雇っている(すごい美人)のだから、階級意識が露骨という描写なのだろう。貴女の画は模倣に過ぎないと月田に指摘され、描きたいのならもっと生活に飛び込まなきゃと就職を求めて美しき出発に至るのだが、心変わりが唐突でもうひとつ説得力がない。せっかく映画なのだから、その辺りのニュアンスを絵画の比較で示してほしかったと思う。原につきまとう画家仲間のイヤミ君嵯峨善兵は月田らに空き地に呼び出されて鉄拳制裁を受け、最後に月田は原とお付き合いを始めてハッピーエンドという展開は、佐藤紅緑の世界だがこんなんでいいのかと思わされる。

(評価:★3)

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