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[コメント] 我ら山人たち−我々山国の人間が山間に住むのは、我々のせいではない(1974/スイス)

ムーラーが『山の焚火』(85)より前に撮ったドキュメンタリー。アルプスのような有名な場所も(すでに70年代に)開発と僻地化に見舞われていたのだった。村人たちの苦労は普遍的なものがあり、一方光景は箆棒に美しい。教科書で見た直接民主制議会付。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







スイスはウーリ地区(監督の出身地)の現状が語られ、記録される。冒頭から消えゆく村が悲観的に描写される。牧畜はやせ細っている。スイス電力ダムができて一部はダムに水没し、働き手もダムに取られた。ダムしか働く場所がない。牧畜する土地は電力会社に借りている。羊は羊毛が売れないので肉を売るのだと庭先で解体している。地元で結婚するのは無謀。序盤は語り手が録音した自分の声を聞くところが映されるという方法が取られる。召使のトルコ人という断片が気にかかる。

地域組合が語られる。庁舎の前での直接民主制議会という教科書で見たことがある光景が展開される。地域組合は牧草地や一部の水域などの共有地を管理している。17世紀の古文書に記された歴史がある。しかし組合活動を国に任せようという動きもある。

一家は山腹の野原の一軒屋に家畜とともに移動して、家畜にそのエリアの牧草を喰わせるために数週間を過ごす。高原牧場。建物を四世帯共同で使用する。もう5代目。拡声器で唄い続ける不思議な山男。あれは家畜への相図なのだろうか。雲の海は箆棒に美しい。帰りにこれも共有物なのだろう、ロープウェイに荷物を積んでいる。

町の教師に汚い農民は仕事を辞めるだろうと子供たちは云われたとある。家畜の売買に先買い人が出てきて安定が乱されたと云われる。雪崩事故が多く被害から復旧は困難。上の村には医者もいない。上の農民は国の補助で生きている怠け者と云われるとある(補助金を受けると蔑む奴がいるのは本邦と同じである)。しかし更なる公的援助が必要だ。自前では無理な構造的事態に至っている。金持ちに二級市民と云われる。市民運動のやり方が判らない、という発言が心に残る。これらの悩みや想いは普遍的なものと思われた。

万霊節、魂は羊の姿で彷徨う。当地の死者は死んでからしばらく自分の家に縛りつけられる。振り向いたら事故死した男の話。そんな神話も少しだけ語られた。

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