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[コメント] 水槽と国民(2015/仏)

今度は水槽を延々と眺める映画。湧き上がる自分の思念との対話が強制されている具合だ。美術館で便器見る体験とそう違わないだろう。映画はそこからはじめて珍しいことに明快に意図が示され、ルノワール『ラ・マルセイエーズ』の引用に至る。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ただしこちらは便器よりハイソなもので、高級そうな魚がたくさん泳いでいる。水槽の向こうに窓越しに通りが見え、行き交う男女の影が通り過ぎる。リアルで水槽をボーと眺めるのは嫌いではない。その体験といまと、どう違うのだろう、と思った。こんな思念はしかし、本作の進展とは違うものだったのかも知れない。突然に音楽が鳴る。

次は会議室、赤いセーター着た白髪の爺さんが原稿読み上げる。マルローの小説「アンテンブルグのクルミの木」これがパヴェーゼ風で面白い。「人間という概念は意味を持つのか?」「王は月の下で本物の王になった。月が隠れると王も隠れた。妃は金星と結びつけられた」「我々は細菌であり王は天である」「ヴォルテールとキリスト教は両立しない。科学と宗教は両立しない。性交渉と誕生を関係ないとする人たちだ」「トポラッチは得るために与える。宇宙から外れて人は死を知る」「永遠は時間にかわる」「運命、誕生、交換、死を知らない人間」。

そして、実に珍しいことに、全体を鳥瞰するフレーズが口にされる。「魚が自分の水槽を見るのは簡単ではない。まず国民を見よ」。そしてルノアール映画。牢獄から救出され、国民万歳、旗が立てられる。プロシア軍の上官が「国民、市民とは何のことだ」と問い、革命軍は地上を進む人を指さす。そして上官に二度と来るなと云うのだった。このルノアール作は仏労働総同盟と一般の募金で製作された由。

(評価:★5)

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