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[コメント] かば(2021/日)

「ここにおるんは部落か在日か沖縄や。余所者は来るな」の学園ドラマ。大人しい生徒を中心に据え、喧嘩描写を全否定するなど、意欲的なスタンスが好感度高い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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導入が面白い。喫茶店で屯して登校しない生徒たち。子供部屋でテレビゲームとシンナー遊びの子供に何も云えない母親、トイレでの売春、先生同志の喧嘩。ソフトボール得意な臨時教師の折目真穂の造形が面白く(谷山浩子みたいだ)野球のコーチになる展開にいいコメディがある。生徒の松山歩夢らもいい味出している。しかし、この野球部の目標が隣の学校との対抗試合というのは、大会には参加資格がないということなんだろうか、よく判らなかった。

折目は最初に松山に云われる。「ここにおるんは部落か在日か沖縄や。余所者は来るな」。このうち在日については辻笙の不登校の韓国二世がいい味出しているのだが、親父と膝交えた教師、チャングなど民族音楽への興味という良い方への展開が簡単過ぎたし、その音楽教室は是非描写してほしかった。

ただ、彼の以前通った学校の連中との喧嘩、野球部員が加勢する件は画期的で、何と喧嘩シーンを全部省略してしまった。描いてしまえば何がしか格好よくなってしまうケンカの描写を、製作者が全否定しているのだ、と受け取った。これは画期的なのではないだろうか。

部落については近藤里奈の恋人徳城慶太が地域の「あの連中は犬を投げつけてくるらしい」とか伝聞の評判口にされて、出身を明かせず別れてしまう、学生の頃も同様のことで遠い駅から通学したと語る。髪染めてきて先生に構ってもらえるのが羨ましかった、と先生に回想するのは繊細。沖縄については語られなかった。

本作でいいのは、クラスでも大人しい、手のかからなそうな生徒を取り上げたこと。上記の近藤もそうだがさくら若葉も印象深い。父の浅雛拓はアル中で家におり、母の皷美佳は水商売で家におらず、会えば喧嘩ばかり。家事している娘に父は優しいというのがキツイ。不登校になってから折目真穂が家庭訪問すると無視される冷たい件。両親の喧嘩に遭遇し、父は死に、母は最後、野球試合用に娘がつくった味噌汁に昔得意だった隠し味をこっそり施す。この長回しはいいシーンだった。

山中アラタのかば先生が生徒を殴り、報告すると母親が泣いて感謝する件は、鉄拳教育の問題を一方からしか描いていないように見える。「学校来てくれるか」と生徒に語るのが先生の目標というのも、現代では違ってきているのかも知れない。設定の80年代はそんなだったのかも知れない。いろいろ抱えて折目は野球部に泣きながらノックして「強くなれ」と云い続ける。教師ではそれ以上のことはしてやれないという諦念も込みなのだろう。

(評価:★4)

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