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[コメント] どたんば(1957/日)

筋だけ追えば普通の物語なのだが、各々のシークエンスに込められた熱量の凄まじさで圧倒させられる。余りにも内田吐夢らしい最高傑作。加藤嘉中村雅子花沢徳衛高堂国典が素晴らしい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭の雨の田舎町(あの警官の人形)から掘削作業までを長回しで追う冒頭がらして物凄い。低い天井と無骨な機械作業。部屋の隅でぽつねんとウィンチを操作する中村雅子が異様な存在に見える。ここからはじめて、映画はこの作業場に人間的な諸々を叩き込み続ける。

救出作業が万策尽きた辺りから、映画は急激に盛り上がりはじめる。加藤嘉に絡む花沢徳衛、続く橋の下で参っている加藤。商売を諦めて補償をしようと決意する経営者の心の転換(冒頭の偽注文を電話する描写が効いている)は、このようなプロセスを踏むのだと語って切ない。花沢についても、さんざ悪態をついてやっと救出現場に想いを致すようになるまでの心の経過がリアルに描写されている。

炭鉱映画は古今東西たくさんあるが、炭鉱をここまで綿密に描写した作品は稀だろう。朝鮮人労働者の活躍は、独仏国境を超えての救出劇による民族融和を謳ったパプスト『炭坑』が想起され、これはおそらく意図的な引用であり、かの名作と倍音を響かせている。

救出成功は云わずもがなと思われたが、それでもとても気持ちよく晴れ晴れと収めて素晴らしい。高堂国典の坊さんに駆け寄る加藤の件がいいし、新聞社がヘリから花びらまき散らすのは意味が判らないがハッピーでいい。江原真二郎志村喬の主演級が主演級の働きをせず、最後は(急激に光を見ないようになんだろう)黒い目隠しをして救出されるのが常道を逸して何かすごい。東野英治郎岡田英次も、そこにいなければいけないのでいる、という感じで盤石。群衆目当てにアイスキャンディ売っている杉狂児がまたケッサク。

(評価:★5)

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