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[コメント] 台所太平記(1963/日)

俳優の技量と撮影編集の技巧で笑わせ続ける理想的な喜劇映画。京塚昌子淡路恵子が物凄すぎて、部屋で立小便する乙羽信子が地味に見える。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







喉詰まられて咳き込み火鉢の灰を噴き上げる山茶花究、京塚のゴリラの物真似、やたらイナセなフランキー堺と乙羽の絡み、彼女が埠頭で船を迎える漫画みたいな子沢山ショット、どれも面白い。本のネタが面白いのではなく映画が面白いのが本作の美点である。

森繁の首の蚊を平手で殴る(「先生の血をこんなに吸って」)歪んだ淡路の造形は箆棒なもので物凄い。蓮っ葉な団令子は同じような造形の多い彼女のなかでもベストの出来だろう、最後に大空真弓を盥に突き落とす喧嘩はミディアムショットの長回し一発で決めて鮮やか。ベストショットは物干し台で青いスカート翻してスリップを覗かせる池内淳子。続く三木のり平とのキスは極めて衝撃的。

森光子から中尾ミエまで「進歩化」してゆく家政婦の変遷を辿り、最後に森繁は空っぽの部屋で淡島千景と家の空虚を慰め合い、もうお手伝いさんの時代は終わりだ、アパートへ引っ越すかと笑い合う。淡路と水谷良重とのレズを揶揄するタッチは旧弊に属し、パターナリズムが時折り辛気臭いのではあるが、これらも含めて最後には谷崎らしく、女性的なるものへの心地よい敗退を謳いあげ、結果家制度からの訣別を気持ちよく受け入れている。

夫婦善哉』コンビその後なのだから、この帰結は必然と見える。谷崎老人エロ小説・映画の舞台裏はこんな具合だったのだろうと思わせられるのもいい含み。

(評価:★5)

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