いい厭戦映画のはずなのにいまいち盛り上がらない。話はサクサク語りすぎでカットの尻も早く、一貫して場面ごとのコクがない。これだけの合戦を淡々と積み重ねることによって醸し出されるものを大切にしたのだろう。それならしかし、本作は三時間の尺が必要な作品だっただろう。

パートカラー（サイレントのような全体への単色の着色も多い）は感じいいのだが、この着色を映画はいつ出していつ出さないのか規則性を求める心が働き、どうやらそんなものはなさそうで、いらん処で注意散漫になりがち。時折出てくるストップモーションはなぜかどれも平凡。

凸ちゃんは役作りなのか『サンダカン』の田中絹代のように無茶苦茶痩せていて怒気迫る。足悪い役は『この広い』以来。相変わらず端役にまですごい俳優を使っている。セットの家はボロというよりもお洒落に見えるのが難。湯水のように予算使う当時だから、もしかしてあの長い木橋もセットだろうか。今なら河川局は決してＯＫ出さないだろうが、昔ならアリだったのかも知れない。

以下筋を追う。「飯田河原の合戦」の大量死体から始まる。大源寺竜介手柄。その伝で祖父の加藤嘉はお屋形様（武田家）の子供の祝いの手伝いで怪我して、血で穢したと殺され、近所に赤子が産まれて生まれ変わりと噂される。「上條河原の合戦」嘉の息子織田政雄の兄妹ミツ山岡久乃再婚。「冨士須走口の合戦」背中におぶった赤ん坊に織田は、百姓は百姓しとればいい、戦になど行くなと語る。

「梨木平の合戦」しかし子供は大きくなり戦に行きたいと希望。周りの農民侍も誘う。戦にいくなと繰り返す織田。「塩尻の合戦」凸ちゃん、織田の子高廣に嫁ぎ、織田亡くなり、そのとき馬が産まれて父の生まれ変わりと揶揄った姉妹を高廣が怒る。百姓はつまらんもんさ、戦に出たがるのも無理ないと高廣。ふたりには１０年目に子供が産まれる。

山岡が嫁いだ甲府の山口屋は金持ちになり過ぎてお屋形に焼き打ち。娘のタツ荒木道子とその娘ノブ伊藤弘子はお屋形への度重なる恨みを語り、逃亡し、捕まる。安部徹は善光寺の仏像持って帰って、放火され殺される（身籠っている凸ちゃんに高廣は火事見るな、赤子に痣ができると云う）。

「川中島の合戦」凸ちゃんの長男松本幸四郎は大将を助けでカシラに昇格。荒木道子さんは河原にひとり住んで狂ったように拝み続ける日々。恨みを祈りにぶつけている。「三方ヶ原の合戦」お屋形様死す。高廣は荒木にお前が祈り殺したんだと笑いかけ、荒木もにっこり微笑む。高廣が止めても長男は戦に行くと云い、凸ちゃん泣く。

「長篠の合戦」長男昇格して戻る。凸ちゃんはそれでも戦争に行くんだと『二十四の瞳』のように嘆く。次男中村万之助も参戦。三男田中晋二だけはおらは戦にはいかんと云っているが凸ちゃんは諦めている。荒木はお屋形様の菩提寺で修行中の息子の川津祐介に会いに行き、ここを逃げて敵方に行き恨みをはらせと云って逃げる。長男は妹岩下志麻（まだ子供で科白がもらえていない）連れて甲府へ。戻って来てお屋形様は裏切り者続出と嘆き、三男連れ出しに失敗。

「高遠の合戦」負け戦の長男は戻ってきてまだ戦うぞ、お屋形様には先祖代々お世話になったと云い、みんなから総スカンを喰う。荒木道子さんはわしの拝んだ通りになったと笑う。三男は次男と妹の救出。敗走する一行のなかに発見するが戦うのだと云うこと聞かない。勝頼の謡など聴かされ、長男に命令されて三男は帰れない。一行を追って凸ちゃん、馬に縋って行くな、家帰えるだぞと怒鳴る。軍隊の行進に彼女がついていくのは『モロッコ』の昔からあるが、母親がついていくのは殆どシュールだ。寺の野宿にもついて来る。『陸軍』の田中絹代の変奏。このニュアンスだけで本作は観る価値があるだろう。

劇伴は三味線が邪魔だが寺の鐘と鈴の単調な連打がいい。翌朝になると兵は半分になっていると云われる。凸ちゃんも河原で殺される。お屋形様の菩提寺の二階に集まり敵は放火、息子たちは自害。荒木道子さんは乱入し、息子の川津に駆け寄り恨みは晴らされたと悦ぶ。高廣は武田の御門の旗を捨てる。再見。