コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 恐れ山の女(1965/日)

当時らしいフォークロアものだが、全編ギャグ映画としても観られる奇妙な二枚腰演出があり、呪術譚への没入を異化して日本の原像を脱構築していると解した。すると奇怪な東野英治郎の投入も大笑いできる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







吉村実子の佇まいからして喜劇的である。元気にワカメ取りしている同じノリで遊廓で働き始める。大湊は海軍客が多い。白熱電球に四角い紙差し込んで間接照明にしている。水揚げが殿山泰司、童貞奪った寺田農はノモンハン事件で「どうせおらたちは1銭5厘の兵隊」と出征。ふたりは親子と判明するのがまず喜劇的展開である。寺田「親父だけは上げないでくれ」殿山「気にするな、忘れさせてやる」で殿山は喜劇的に腹上死。ナーバスな寺田も自殺してしまう。

吉村と寝ると取り殺されるという噂が蔓延し、因習が浮上する。お母さんの中北千枝子は嫌がり、女中の浦辺粂子は祟りがあると怯える。さてこれを肯定するか否定するか、因習にまみれるか相対化するか。本作はユーモアでもって否定していると思われる。

寺田の兄の川崎敬三が通い始め、馬鹿げた因果噺をしている町の人に怒っている、俺は通うのだ、吉村は同衾を断り川崎もその気で、夜中まで喋って過ごしたりするが、二人旅の温泉宿で川崎が結婚を迫ると、最終列車を逃して車停めようとして川崎が轢かれ死ぬ。軍隊の車停めようとするとは怪しからんと軍人は走り去って行く。祟りと云うより軍隊のためと映画は云っている。

中北の紹介で東野英治郎の行者が喜劇役者のように登場。水鉢から顔に陽光が乱反射するショットがすごい。舟漕ぎ出して岩だらけの浜で厄払い。東野は念仏唱えて白装束の吉村に杖を振るい、周り回っている5人の女が柄杓で吉村に水掛ける。「悪霊退散、走れ」と指示され走る吉村を東野は後ろから杖で殴りまくり、吉村は「抜けていく」と呟きながら失神して喜劇的に死んじゃうのだった。

冒頭と収束は母の菅井きんがイタコに娘の呼び出しを頼むが、イタコは口寄せをしない肩すかし。映画はイタコを信用していないとしか思われないのだった。私の観たフィルムは『恐山の女』。タイトルは「おそれざん」とルビが振られていた。先輩娼婦伊藤幸子がいい佇まい。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。