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[コメント] 黒部の太陽(1968/日)

いかにも大作らしい大味で、ハリウッド志向が有為の監督を駄目にした典型例に見える。ただしハプニング映像はド迫力で強力な見処。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







字幕「この映画は敗戦の焼あとから国土を復興し文明をきずいて(ママ)ゆく日本人たちの勇気の記録である」。冒頭「建設しながら調査して、調査しながら建設するのが黒部方式」と建設部長の岡田英次は現場視察の三船敏郎に語る。「入札にすると見積もりのメドが立たない」から「特命しかない。ウチの設計で受けて貰う会社でやって貰う」と社長の滝沢修。入札できないから特命、というのを始めて聞いた。何のこっちゃと思うが、だんだん判ってくる。詳細設計なしで着工しているのだ。詳細設計ができないから。

滝沢は建設事務所次長の人事を断る三船に語る。「黒部は我々が克服しなきゃならん山だ」「事業というものはね、これは僕の信念だが、経営者が十割の自信を持って取りかかる事業は、そんなものは仕事のうちに入らない。七割成功の見通しがあったら、勇断を持って実行する。それがなければ、本当の事業はやれるものではない」。原発もそんな具合に作ったのだろうと思わされる発言である。

なのに三船は簡単に信念を変える「やらせていただきます」。トンネル掘るのはフォッサマグナにぶつかったら無理と云うのに、辰巳柳太郎は東映映画のノリで枝豆の鉢を叩き割って下請け工事を請け負うのだった。息子の裕次郎は戦争の二の舞と愚痴る。掘削は竹槍ならぬ手掘りで始めている。

宇野重吉の老人が昭和13年、軍命令の黒三ダムのトンネル掘削、自然発火する現場で300人近い労務者が死んだと回想する。このときの監督が辰巳で、労務者を大勢殺して発破事故で兄を失くした責任を裕次郎は追及し、今度の工事も何のためだと怒り(ダム建設前の黒部を見収めに来たと云っている)、三船と衝突する。三船の答えは未来志向で行こうみたいなものだ。寝ていろと云われた辰巳は赤い腹巻して笛吹いて現場を仕切り、トロッコと衝突して退去。ここで裕次郎が辰巳の後を引き継いで現場監督を始めるのが感動風景として描かれ、呆気にとられる。

続く天井落盤は面白い。天井が撓んで、三船が全員退避の指示を出すのだが、次長があんな現場にいることはないだろうに。ここでも辰巳柳太郎は何やら暴れている。その直前、1時間22分頃に上から板が落ちてきて職人の頭にブツカるショットがあるが、トラブルをそのまま残したのだろう。天井崩落で、模型かなと思ったらキャメラ引いて本物だったというのがいい。逃げてストップモーションになるが、その先どうなったのか気になる。

湧水はフォッサマグナに当たったからと説明される。水逃がすためのパイロットトンネルは冒頭に二谷が云ったように掘ればガスが出たり水が出たり落盤したり。滝のような水に打たれる辰巳。いっそ辰巳が主人公にしたら面白かったのに作品は半端に終わった。

「お前たち何か隠しているな」「実は牧ちゃん日色ともゑは白血病」みたいな通俗(トンネル開通日に死ぬ)。でも三船は現場戻って、人足がいないなら3交代を2交代にとか無茶苦茶云っている。風呂場で向かい合って三船、破砕帯が抜けないと告白する柳永二郎に「人間にカネと知恵と時間を与えれば、出来ないことはないはずです」。ガンは治らんと云われて治りますと返す。不可能を可能にする人間の何か、魂とか心とか、それを信じないから治らない。破砕帯だって同じだと大日本帝国陸軍好みの精神論をぶつのだった。こういう例え話は実に下らない。

敗戦時に子供を失っているからこの上もう失うものはないと柳に土下座する滝沢の社長の公私混同で宴席に沈黙が走り、熊谷組が本気になるというのもいい加減な展開。なぜ出し惜しみをしたのか、シールド工法。トンネルは人間が抜くもんだと辰巳に詰まんない演説と裕次郎。裕次郎の指示した現場で人足が亡くなって殺伐となり、辰巳は荒れ狂い、下條正巳らが親子に罵声を飛ばして仲間の人足が出てゆく。キャメラは裕次郎のバストを延々捉える。この件は、辰巳のやくざ映画が相対化されている迫力がある。

湧水が止んだのだが、余り科学的な説明はなく、ただ渇水期とは云われ、82mの破砕帯が突破されたとアナウンスされる。以降も寺尾聰が事故にあったりと、戦争と戦死のアナロジーで物語は進んでトンネル貫通、三船が次女死すの電報抱いて挨拶。辰巳は病床で黒三ダム掘削の幻覚を見てたぶん死亡。

超高層のあけぼの』等と同様の土建映画。関西電力、熊谷組ほか実名企業がタイトルに並ぶ。序盤、何度も崖から谷底をキャメラが覗きこみ、これが恐ろしい。ホンマモンの迫力がある。せっかくの樫山文枝は裕次郎との結婚という刺身のつまでファッションショーに出てきたみたいなものだった。195分版。

(評価:★3)

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