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[コメント] 大菩薩峠(1957/日)

撮影美術は絶品だが話は空漠としてとりとめのない出来。唯一結構が整えられる下働きの与八(岸井明)の聖性と、天使のような月形龍之介は印象に残る。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







地獄絵のタイトルバックに続いて片岡千恵蔵の通りがかりの殺人。物凄い挿入部で、この人でなしの行く末に俄然興味がかき立てられるが、まるで収斂する処がない。続編ありきにしても、吐夢の『宮本武蔵』は各編もっとメリハリがついていたのでおり、もっと何とかなるだろうに、比較しても纏まりがない。

「剣の深淵に混迷する彼は血に飢え、魔心に狂い、地獄の業火にのたうちまわっていた」

Movie Walkerにある本作の粗筋に、机竜之助の心情がこう記されている。きっと原作(未読)はこの辺り微に入り細を穿って描写されているのだろう。しかし映画で千恵蔵にこの煩悶を読み取ることは難しい。何やら女房泣かせてダラダラしているばかりで、ヤクザ者ってのはこういう輩が多かろうという程度の感想しか湧かない。僧侶に救われる件は重要に違いないのに、ここにも煩悶は示されない。

竜之助に殺された後、自殺未遂者として再登場する嫁の長谷川裕見子(船越英二の嫁さん)には、仏教説話の因果譚らしい曰く云い難さがあるが、これも突き詰められてはいない。中村錦之助の復讐は凡庸(彼のアップにソフトフォーカスかけるのには驚いた。何か気持ち悪いぞ)、その他スター列挙も話を拡散させるばかり。

結局、冒頭で仏像彫り、最後に千恵蔵の赤ん坊を背負って里へ帰る岸井の無垢な聖性にだけ力が感じられた。観たのは二度目でよく覚えていなかったのだが、回らない風車持って故郷へ向かう彼のラストシーンだけ覚えていたから、感想は変わらなかったのだろう(岸井明って、『銀座カンカン娘』で凸ちゃんと踊っていた人だった)。あとは丘さとみを見守る天使のような月形龍之介がいい。ハリウッド名作によくあるタイプではあるが。

当時、オールスター映画とはこんな散漫なもので良かったのだろうか。もう少し話を刈り込んで千恵蔵に焦点を当ててほしかった。

撮影美術は吐夢らしく重厚でいい。初期カラーで大河内傳次郎の殺陣が終わった後の遺体の集団の血糊を雪の上に並べて見せる俯瞰がベストショット。龍之介が丘・錦之助と離れた道端に腰かけて二人を見守っているショットや、千恵蔵が亡霊に脅かされる件もいい。撮影だけで充分満足ではある。

(評価:★3)

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