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[コメント] 夏の庭 The Friends(1994/日)

三國連太郎の怒気迫る抜群の表出に相米=田中陽造はついて行けていないという感想
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







子供たちは、廃屋のなかでこの思い出とともに墓場に行くつもりだった兵隊を掘り出してしまったのだった。ガラス戸六分割のトリッキーな撮影のなか、白い蝶をみた三國連太郎がフィリピンの民間人を皆殺しにしたと告白を始める。妊婦を殺したあと腹に触ったら赤ん坊が腹をついていた、と赤ん坊の仕草をする。怒気迫る表出。映画はここだけで観る価値がある。

で、映画は最後、三國が亡くなった後、井戸に蝶を飛ばす。そして子役たちに、あの蝶はお爺さんだ、と云わせる。ここはビックリした。この蝶が三國な訳はない。皆殺しにしたフィリピンの民間人であるべきだ。しかし映画はそう解さない。この解釈とともに、映画は三國と淡島千景の可哀想な日本人の被害者意識だけを切り取り、加害者の側面を無視してしまった。これは田中陽造の限界だっただろうか。

映画は冒頭のサッカー場の下手糞な雨、続くモノレールの見事な夕暮れと、シーンごとに熱量が一定していないバラバラ感がある。病院で迷子のプチホラーの最後に出てきた柄本明が最後の焼却場で再登場するのだが、彼はどういう人物だったのか不明のまま終わる。たぶんカットされた件があったのだろう。相米映画では毎度のことだが、本来はあり得ない手落ちである。

人物なり庭なりが、最初アップで断片的に示され、どんどんキャメラが引いて全体像が判ってくる、という脈絡のつけ方は上手くいっていて感じがいい。三人の子役は太った子がいい。眼鏡の子がひねくれた造形なのは『翔んだカップル』の尾見としのりが想起された。江崎滋が個人的に懐かしい。子供に庭の草取りをさせながら三國が「露営の歌」を口ずさむのが一瞬禍々しい演出で、記憶に残る。

(評価:★3)

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