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[コメント] 乾いた湖(1960/日)

リアルタイムで撮ったことを思えばいい現状報告なのかも知れないが、云い切る度量のない気弱な両論併記にも見える。有名な「デモ行く奴はみんな豚だ、豚は汗かいて体擦り合わせるのが好きだからな」と岩下志麻の両論併記。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ボートで戯れ混浴するブルジョア学生の男女。混浴にひとり参加しない岩下志麻は父の自殺の報聞いて財閥息子の山下洵一郎のクルマでキス拒絶したりしながら自宅へ戻る。父は葬式に来た自由党の国会議員伊藤雄之助に農産汚職で詰め腹切らされた噂。岩下の姉鳳八千代はこれ理由に婚約者高野真二に振られ、高野は岩下に下種に云い寄ったりしている。

三上真一郎かつては砂川闘争も参加したらしいが、今は独裁者志望で学生寮の部屋中に貼っているヒトラーのポスターの上にゲバラ貼っている。大学の学内委員会(自治会)に参加するもシラケていてひとり煙草吹かす。民主主義学生連盟への加盟が議題になり、トロツキスト呼ばわりされるのは御免、いやこれからの学生運動を引っ張るのはあそこと議論になり保留。次回、その連盟の春山勉が来てデモや請願では事態を収拾でいない羽田闘争に参加と説明して拍手。そこで三上は投書があった自治会の金でバー通いと糾弾され、「びっこ」と詰った相手に「妾の子」と云われて怒り、仲良し自治会で世界を変えられると思ったら大間違い、安保反対はいいがアメリカが経済援助停止したら大衆の生活を保障できるか、そりゃ生産力は向上しているが、何の資源ももたない日本はどうなる、俺には俺の考えがあるとぶって自治会を抜けて清々したとばかりに伸びをする。

続いて下宿の窓からラグビー部眺めてその統率された練習振りに影絵の軍隊を想起、号令かける自分を夢想して爆弾づくり。爆弾テロルだけでどうやって軍隊率いられるようになるのか、ヒトラーやゲバラになれるのかがよく判らない。これが作劇の最大の欠点だろう。三上はバカなだけかも知れないが、それは寺山=篠田がバカというのと同じである。後に自治会の連中に囲まれて三上は云う、「50万集めたって100万集めたって何にもなりゃしないさ。政治の実態はデモなんかで変わらんからね。結局君たちの気分さ、爽快でスポーティなね、下らんよ」「デモ行く奴はみんな豚だ、豚は汗かいて体擦り合わせるのが好きだからな」と上手いこと云う。ここまで云う作者がデモ好きとは思われない処。「政治がどうして出来上がるか俺が教えてやる。今後俺のすることを見てせいぜい真似するがいいぜ」。ここでもやはり同様の疑問は解消されない。

委員会の小坂一也は三上の財閥の息子の山下に就職頼んでくれと頼むが、山下は就職シーズンになると豚みたいな連中が山ほどやって来るんだと断わる。小坂は縊死。山下はまた、倒産しかけた父の会社救うために何でもしますと申し出る娘を、200万円の小切手で吊ってブルジョアパーティで裸にさせ歌唄わせる。唄われるのは革命歌 ♪晴れ晴れと光さして嵐過ぎし青き空に。

伊藤は生活に困っている岩下の母沢村貞子に面倒みさせてもらいたいと申し出、姉の鳳を抱いて金を渡し、沢村は札束受け取って「先月より少ないね」といいギャグを飛ばす。批難する岩下に沢村は、世間にはしたくなくてもしなければならないことがあるのよ。この絵に描いたような悪人は空疎だろう。三上は岩下にラングストン・ヒューズの「僕を重んじよ」というリフレインのある黒人少年の貧困の詞朗読。俺は妾の子と告白して、岩下は姉を思うのだろう、三上と寝るのだった。

岩下は不潔と家に寄り付かず職探し。三上に路上で出会って「何にも始まらなかったわね」と別れを告げ、山下に一匹の豚として仕事頼んで襲われて逃げて、路上でデモの流れに流されて、しかし加わって晴れ晴れとした顔して一緒に歌唄っている。ここで映画はデモを肯定的に描いているとしか見えないが、後に安保反対を否定した篠田がこのように描写するのは不適当と思われるばかりだった。贔屓目に見ればこの時点ではこれしかなかったということだろうか。政治も財界もテロルのダメななか、消去法の妥協の産物という印象で、その後岩下が政治に関わるとはとても見えない。

序盤にバーで三上は伊藤と出会っており、日本は民族意識高めないといけないが日本のインテリは亡国論の虜だと主張する伊藤に、三上は民族なんて信じていないとニヒリスティックに主張しているから、彼は右翼でもない。ラス前にも同じ席で安保デモの声聞きながら、伊藤は内閣を倒せるのはデモではなく党内良識派と財閥と語る。ここまでどちらも(伊藤も山下も)スカタンと縷々描写されているのだからイロニーなんだろう。三上は内閣を力で倒すと主張する。

三上は山下の写真の束から岩下見つけて気に入ってデートに誘い(昔の大久保駅が映されている)姉の件を聞き、ボロ下宿に住む頬に傷ある「アル中でアタマやられている」ボクサーのコリアン水島弘に、姉振った高野を殴るよう頼むが、水島は次いでに頬を剃刀で切る。水島は興奮してそのまま浮浪者を殴ったりしている。三上は彼を青線行きのタクシーに乗せる。これは云い逃れのできないほど酷い件。三上は爆弾実験成功させるもこの一件で逮捕されてしまいテロルは何もできずに腰砕けと云う他ない終了。結局、デモを肯定してテロルを否定する結末となっているように見える。だから「トロツキスト」の羽田闘争はテロルではない、というのが当時の寺山=篠田の認識だったのだろう。本作から辿れば、その後新左翼が尖鋭化してテロルに走ったのは驚嘆事だったのかも知れないとは思う。しかし何やら煽っている風でもあり、判然としない。その他、炎加代子は三上にすがる浪花節の女として意味なく登場、マダムの高千穂ひずるも端役に終わる。武満のテーマは新主流派っぽいジャズ。岩下は入社第1回作品。

(評価:★3)

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