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[コメント] 青い乳房(1958/日)

稲垣美穂子の件が突出していい。居座る変態薬剤師小沢昭一厭さに家に帰れず不良に走る造形に、然も有りなんという説得力があった。他は二谷英明筆頭にトンデモ映画の部類だがそれなりに面白い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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著名な画家二谷英明は昔強姦した渡辺美佐子がカネのために老人と結婚したのを知り、ゲットしようと罪を腹違いの妾の子小高雄二に押しつけたうえで迫るも、真実が発覚して失敗するという本筋(筆跡の件が解決してないのだから信じる渡辺がどうかしているのだが)。いい加減な親を持った子の不幸主題で、渡辺を母に向かえた小林旭、薬局店経営の父が死んだあと家に居座る変態薬剤師の小沢昭一と母初井言榮の関係に耐えられない稲垣美穂子、そして小高の境遇が重層化される。

いいのは稲垣の件で、小沢の造形もの凄く、レジの金取って出ていき「捨てないで」と縋る初井、夜中に喧嘩、小沢は酔っ払って戻って「呑み足りなくて帰りましたよ」と畳にごろ寝、初井に「こんな婆さんでは私が可哀想」と笑う。初井が殺害するのも当然と思われる。稲垣は小沢の丹前を棒で摘んで廊下に捨てている。旭とのデートが終わって送られても、帰りたくないと家の前でゴネるのがさもありなんという感じでよおく判る。このように子供は夜遊びして不良になるのだと示して説得力があった。

旭については、父大森義夫の前では好青年で、渡辺とふたりになったデパートで「おばさんカネくれ」と豹変する序盤に驚きがある。大森が風呂から一緒に入れと誘われる渡辺の横でニヤニヤ笑う旭の件は渡辺のやり切れなさが燻り出されていた。旭の稲垣ナンパの件は、東口から地下道通って『楡の木陰の欲望』の看板過ぎて椎名町のラブホ街に至る池袋ロケがいい記録。また、このときの稲垣のセーラー服姿が決まっている。立ち姿の麗しい女優さんだった。としまえんのデートも収められている。最後に旭は、稲垣に貴方には母親が必要とか云われて、よく判らぬまま渡辺と和解して大団円。

クラブ経営する小高の不良っぷりはもうやり過ぎで、妾の子の開き直りは当時らしいのかも知れないが、稲垣のブルーフィルム撮るのもひどいし、邪魔臭そうに出産に立ち会っていたのに、赤ん坊の顔見た途端に改心する件は突飛すぎて痒い。産婆の高橋とよを天使のように描くのはいいんだけど、ふたりのアップの笑顔の交換とは恐れ入った。稲垣にブルーフィルム返して「悪い仲間と付き合うんじゃないぞ」という科白には場内大爆笑だった。

清順らしさは感じられないフツーの日活作。一箇所だけ、正体のバレた二谷はどうするかという処で、突然に不貞腐れて酒煽るショットだけで終えたのが素晴らしくて印象に残る。煽情的なタイトルは稲垣を指すのだろうか。原作は面白クラブ連載「嘆きの乳房」。モノワイド。

(評価:★3)

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