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[コメント] 恐怖の牝獣(1964/英)

回転』の撮影監督がメガホンを取ることにより舞台がロンドン近郊に移り、本家の意地を見せるのに格好なお膳立てが整った。手垢のついた幽霊談で始まったものが、気がつけば観客も劇中人物と同様に暗中に放り出されて、もう何が真実なのかわからなくなる
袋のうさぎ

ここまで前半と後半のトーンが截然と分かれてしまう映画も珍しい。 序盤はまさに『回転』そのもの、第二幕はまるでロージーの心理劇のような風格がある。

廊下ひとつ越えたら鬼が出るか蛇出るかわからないような、幽遠に入り組んだ城館の存在がなかったら、この映画は成立しなかっただろう。 ある部屋では存在しないものの幻影に取りつかれて発狂しそうになっているのに対して、ちょうど同じころ反対側のサロンでは夜毎の愛の営みが素気なく行われていたりする。廊下の角を曲がると空気ががらりと変わってしまうような空間的=心理的な隔たりが、サスペンスの契機としてここまで見事に活かされている例を自分は知らない。闇の奥の扉の下から漏れる薄明りだけで、この館にはまだ語られていない秘密があることを暗示してみせる。

エミリー・ワトソンの若き日のドッペルゲンガーかと見紛うジャネット役の女優が、あまり美人でなく、いかにも寮生活に馴染めずに孤立しそうな俤を湛えているのも重要なポイントだろう。禍々しい記憶に苛まれる令嬢の役柄をあそこまで感動的に演じられなかったら、後の意表外の展開も説得力のあるものにはならなかったに違いない。

それにしても、ハマーフィルムというブランドと意味不明!な邦題のせいで、他の凡百のB級ホラーと一括りにされしまったとしたら残念だ。 露骨にフランスの某映画を思い起こさせるトリックも、おそらく、この映画の評判にあまり寄与していない。それは本作の知名度の低さにも表れている。しかし、夢のなかで見た顔が白昼の窓辺に現れる瞬間の鮮やかさときたら、一小節分余計に長いラストの弱さを補っても余りあるものがある。

(評価:★4)

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