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[コメント] アイズ・オブ・マイ・マザー(2016/米)

ワイエス的な引きの画面の森閑とした奥行が、エド・ゲインの女性版の物語に、大人のための残酷な童話のような奇妙に歪んだパースペクティブを付与すことになった。
袋のうさぎ

狂信の母の膝下の世間から隔絶された暮らしとか、制御できないいびつな欲望を充たすために静かに醸成されてゆくプレデター的習性とか、個々のモチーフはもろにクリシェだが、藺草や泥濘が匂ってきそうな濃密な画面の連続に、じきに気にならなくなった。

会話の乏しい家庭の緘黙の頑なさと裏庭の向こうに広がる闇の深さが、ほとんど動きのない少女の生活で大きな時間を占めることがひしひしと伝わってくる前半。 夜闇にぽつねんと浮かび上がる納屋の佇まいや、眼界をしぶとく遮る千古の密林の始まりなど、ヒロインの心象に寄り添うように丹念に構成される画面にまず目を瞠らされる。 彼岸的な光暈で隈取られた深夜の逆光のシルエットのように、心神喪失の瞬間を示唆する印象的なカットもあった。 ドットとドットをつなぐ出来事自体よりも、間延びした無の底知れなさを捉えることに心血を注いでいるところが出色のできばえだった。 後にサイコシスを惹起する心的外傷の原風景ともなる、冒頭の乱入者の唐突な振る舞いの処理の仕方にも(何か人間離れしたものがある突拍子のない動き、急激な暴力性の芽生え、オーバーラップによるサスペンスの耐え難さはただものではない)、この新進監督の才気が感じられた。 7/10

(評価:★4)

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