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[コメント] ことの次第(1982/独)

ヴェンダースの口にハンバーガー(=アメリカ)は合わなかったらしい。完成したら『アルファヴィル』『華氏451』に匹敵する映画史上に残るトンマSFになっただろうに。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ヴィム・ヴェンダースが苦手でして。若い頃に観た『パリ、テキサス』と『ベルリン・天使の詩』が死ぬほど退屈だったもので。

今回「12ヶ月のシネマリレー」という名作上映企画で本作を初鑑賞。興味をひいた理由は映画制作現場を舞台とした「メタ映画」だったから。『8 1/2』、『軽蔑』、『アメリカの夜』。これらの作品はただ撮影現場を舞台にしているのではなく、映画監督の内面を描くことに主眼を置いている作品たちです。劇中の映画監督には監督本人が色濃く反映され(トリュフォーなんか自分で出演しちゃってるしね)、映画とはなんぞや、監督とはなんぞやという哲学に昇華していく。メタフィクションとしての映画。だから「メタ映画」(命名したのは私ではない)。そして、この『ことの次第』は立派なメタ映画だった。

今回のリマスター版だけなのかもしれませんが、冒頭に「この映画は、フランシス・フォード・コッポラ製作総指揮『ハメット』を監督していたヴェンダースが、撮影中断の合間に撮った映画ですよ」的なちょっとした解説文が入ります。つまりこの映画は、『ハメット』がうまくいかなくなった『ことの次第』というわけなのです。

もちろんフィクションですよ。でも「これはフィクションであり実在する人物・団体とは関係ありません」みたいなダサい説明をするのではなく、ラストシーンで思いっきりフィクションに振れることで、フィクションを主張するのです。でも本当はこれが噂の真相、じゃない『ことの次第』だけどね、とヴェンダースが言ってる映画。

撮影中のトンマSFから後、俺の思うヴェンダースらしいヴェンダースの死ぬほど退屈な時間が続くんですが、後半になったらまるで別の映画のように俄然面白くなったんですよね。 ちょっとしたハードボイルド。『ロング・グッドバイ』より『ロング・グッドバイ』。

キャンピングカーの中で、ハンバーガー喰ってご機嫌の(?)プロデューサーが「♬ハリウッド、ハリウッド♪」と歌を歌い、その横で監督が「映画とはストーリーじゃねーんだよ」みたいなことをブツブツ呟く。ドイツ人の映画監督である私とハリウッドとは映画に対するスタンスが違うというテーマ=『ことの次第』がここに集約されるんですよ。

そして最後の最後、8mmカメラを銃のように構えるじゃないですか。ヴェンダースの「カメラは武器だ」宣言。グッときます。白黒映画をバカにすんなよ!俺はカメラで戦うぜ!

終わってみたら面白かったんですよ。前半は死ぬほど退屈だったのに。

(2023.06.03 シネ・リーブル池袋にて鑑賞)

(評価:★3)

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