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[コメント] 全然大丈夫(2007/日)

悪意観察系監督による、善意抱擁系作品。存在を許された半端者達の平穏。蛇足ながら、この作品以前の監督名義は藤田秀幸。080608
しど

藤田監督の過去作品のモチーフは、登場人物が右往左往して苦しむ様を笑うこと。ある種、イジメに近い。しかし、今回の作品は、苦しむ人々を優しく見守るばかりでなく、救いの手すら差し伸べている。

作中、ホームレスを観察し絵を描いて楽しんでいた木村佳乃は、ホームレスが接着テープを欲していることを知って、さりげなく与えた。旧来の藤田作品の登場人物ならば、決してそんなことはしないだろう。チクワをくわえたまま、困ってる様子を見てひたすらケラケラ笑っていたはずだ。そうした作風の違いはメジャー作品用の姿勢なのか、監督自身の名前まで変えてしまったのは驚く。

過去作品からいじわるな内容を想像していたのに、上述したように、本作は意外にも優しさに溢れていた。いまどき珍しい、「そのままの君でいいじゃん」といったタイプ。良く見れば何一つ問題は解決していないのだけど、気の合う人をみつけることで、皆、少しずつ心の平穏を取り戻していく。

物語ならば、何かを達成したり、誰かが成長するべきである。でも、気付けば、今の僕達は、物語以上に人生のハッピーエンドに必死になっていて、効率を優先した成果主義が蔓延する社会に生きている。だから、この作品のように達成も成長も無いけれど、「右往左往するうち、誰か気の合う人がみつかれば、それでいいと思うよ」なんてことを囁かれると、ホッとする。

まあ、そんな観客を見て、「こんな陳腐なドラマに感動しやがって、バカじゃねーの?」なんてほくそ笑んでるのが監督の今回の楽しみ方だったのかもしれないけど。

(評価:★4)

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