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[コメント] 緋文字(1972/独=スペイン)

ドイツ人が語り、演じる、御伽噺の中に浮かぶ新大陸アメリカの物語。〔3.5〕

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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もとはTV映画、ロケーションはアメリカではない。確かにこの光具合は素人の自分にもアメリカのそれだとは思えない。だが、それが何とも美しい。目の覚めるような水色の空、紺碧の海、白い砂浜。またドイツ女性の顔を映し出すその陰影の的確さも美しい。映画は光学装置の中で生み出されるものだという全くもって当たり前のことを、テレビモニタの走査線上に浮かぶ画像でさえ思い出させてくれる。

ドイツ人達が欧州の風土を背景に、ドイツ語で語り、演じるアメリカ文学の古典。少女が何気なく無邪気に呟き、子供らが歌い興じる童歌のドイツ語は、プリミティブな響きで聴く者の耳を捉える。原作は新大陸アメリカに渡った清教徒達の宗教的モラルを主題とした物語だが、この映画に映し出されるアメリカはむしろドイツ人の思い描く空想の、御伽噺の中に浮かびあがるようなアメリカ、そんな趣きがある。物語が本来語っているはずの清教徒倫理と禁断の恋の相克というドラマよりも、その禁断の恋から生まれたパーラという少女の存在の方が特異な輝きを帯びているのが、ヴェンダースの映画の本来の在処、あるべき場所を告げていたと言えるかもしれない。この少女は、まるで不思議の国のアリスか赤頭巾ちゃんか、というくらいの特異な可愛らしさでもって、映画の中を動き回っている。この少女(幼いイエラ・ロットレンダー)とゲスト出演のリューディガー・フォークラーとの小さなシーンから、次作の『都会のアリス』は発想されたという。

監督にとっては失敗作として苦い思い出のある映画らしいが、自分にはとてもしっくりくる好い映画だった。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ざいあす[*]

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