アル中の年老いたスリ、彼を慕う女性たちと弟子入りする若者を巡る話。とはいえ、スリという題材はそれぞれの登場人物を性格づける意味以上のものではなく、タイトルほどには焦点は当てられていない。同じくらいの重みを持っているのはアル中からの脱出。主人公のスリは弟子入り希望の若者に触発されて現役復帰を目指す。彼を慕う女性の一人は断酒会を主催していると言う設定もある。これら以上に作品を通して描かれているのはやはり男女の恋愛事情。若者の方はもちろん、前述のような中年同士の感情のやりとりも恥ずかしいくらい純情に描いている。ただ、そこでどうしても彼を慕う女性を演じている風吹ジュンが中心になってしまうのはなぜだろう。確かに彼女には何かしら過去があって、でも健気に新しい恋をする中年女性はぴったりくる。これは「貝殻-コキーユ-」と言う作品でも証明されていた。それだからこそ、彼女に対する過剰な思い入れのようなものが鼻についてしまうのだ。スリ役の原田芳雄はアル中からの復活をとても見事に演じている。若い方では柏原収史よりも真野きりなの方が目についた。音楽が多少やかましかったのと、部屋の中の描写が角度によって印象が大きく変わるため冒頭ではシーンの切り替わりが分かりにくい。同様に登場人物たちのファーストシーンが散漫で中心人物がしばらく把握しづらいのも難点。