[コメント] 刑務所の中(2002/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
刑務所ものでいと、どうしても海岸のアクションものを想像してしまいますが、外国にもショーシャンクの空にとかグリーンマイルのような名作があるんですね。いずれも感動的です。
が、しかし・・・
やはり外国映画の刑務所というと不潔感が残りますね。
対してこの映画は、いかにも日本人的です。
丁寧に掃除をする。隊列を組んで行進する。体操を全員で行うなどなど。この風景がいかにも日本的であることを認識します。
主人公のキャラも日本人的ですよね。
銃砲刀剣類不法所持という罪で刑務所に入った主人公の職人的に丁寧な手さばきは、刑務所に入って薬を入れる袋を次々と糊づけする几帳面な姿勢につながります。
そんな主人公が刑務所の中で出される料理などを丁寧に丁寧に書き写して残した記録がこの映画の中心軸に据えてあるわけです。
刑務所の中で繰り広げられるこのような軍隊形式の生活の中に、いかにも日本人が丁寧に作り上げてきた文化のようなものが蓄積されていることを知って、驚きとともに感動を覚えてしまいました。
むしろ刑務所の外の方が雑然として日本人らしさを失っているようにも思えますね。
そしてこの映画を面白くさせているのが脚本陣でしょう。
この日本人らしさの中心には鄭義信がいると思えます。
彼の作品の中で言えば『愛を乞うひと』や『血と骨』のような作品に、戦後の日本人の混沌が描かれていて、彼はその時代を必ずしも肯定的に示していませんが、この映画では間違いなく日本人らしさを追及しているように思えました。
そしてさらにこの映画を面白くしているのが中村義洋でしょう。彼は映画監督としても才能豊かな人材ですが、脚本家としての実力も見事です。彼の視点は登場人物を一人一人丁寧に観察して描写している点でしょう。まじめさとか丁寧さのようなものをそのまま映し出すことで滑稽にしてしまう作りは見事ですね。
崔洋一監督はインタビューでも語っているように、大島渚監督からの影響を隠しません。でも彼は「大島さんからは酒の飲み方しか教わっていない。」と言います。それでも崔洋一監督が大島渚的であるとするならば、それは「キャスティング力」でしょう。
かつて大島渚監督が言われていたコメントに「脚本ができてキャスティングが終われば、映画はもう出来上がったようなものだ」というのがありましたが、特に創造社を解散して、隔たりのない映画作りができるようになったのは、フリーになってからの大島作品に見て取れます。
『戦場のメリークリスマス』のビートたけしや坂本龍一。『御法度』には崔洋一も出演しています。この自由なキャスティングこそ、崔洋一が受け継いだ大島渚的な世界なのかもしれませんね。
2010/07/11 自宅
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