[コメント] ナイン・ソウルズ(2003/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
刑務所ものの色物だとばかり思って観始めたのだが、これがなんと。凄い作品だった。確かに低予算で作られていて、画面は安っぽいのだが、しっかりカメラは映画として作られている。物語自体も個々の物語が重厚な上に泣ける物語が連なっているので、なんかもう目が離せなくなってしまった。映画とは金じゃない。いかに人間を描くかだと言うことを、改めて思わされた。
主人公が九人もいるので、散漫になりがちなのだが、短いながら、一人一人の個性がよく出ていた。ある者はどうしてもやっておきたい心残りをやるために、ある者は過去を清算するために、ある者は何の目的も無かったが、ここで生き甲斐を見つけて。又ある者は全く何も見いだすことが出来ず…ただ、それぞれがそれぞれの一瞬に自分の命を賭ける思いを持って生きていた。
脱獄で指名手配犯と言うだけあって、彼らの前途は暗いばかり。彼らは一瞬の喜びが次の瞬間も続くことを期待して、一瞬一瞬を生きていくしかなかった。ほんの短い瞬間をどう生きていくのか。その男の生き様に目が離せない。
希望を胸にしていたのが裏切られる瞬間、思いもかけぬ出会いを果たした瞬間、まるで事故のようにあっけなく殺されてしまう瞬間、そして何も見つけられないまま苛つき続け、生きることを放棄する瞬間、それぞれの瞬間は、それぞれが生きている瞬間だ。
これが心に沁みるのは、それぞれの男の生き方や考え方は、ほんの少しずつだけど、私の中にもあるものなんだからだろう。彼らの思いが分かるような気がするからこそ(それは確かに「気がする」という程度だろうが)、その凝縮された生き方が心を打つ。
最後、長谷川がバスで待ってると、そこに乗り込んでくる仲間達。その屈託のない笑い顔を映しつつ、俯瞰で引くカメラ。
彼らの大半はもう娑婆にはいない。だけど、生き切った!と思わせるその瞬間に出る笑顔なんだろうな。そんな風に思う。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。