[コメント] 野良猫ロック セックスハンター(1970/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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『赤線基地』(53)も『キクとイサム』(59)も『ゼロの焦点』 (61)もすでにある訳だが、娯楽作にかこつけてそこから泥沼に一歩踏み込んでいる。初期の大江健三郎(「人間の羊」とか)の影響もあったのだろうか。
幼児期の怨念から狩りを主導する藤竜也は右翼の鑑のような人物(インポだし)。団体名がイーグルスというのがフルっている。その行動原理は一貫しておらず、一方でアメリカ兵相手に金儲け図ったりするので混乱させられるが、これはもう、保守派の理論と実践(アメリカべったり)の矛盾をパロディにしているに違いない。そこに梶芽衣子が投げ込むのが左翼のシンボル火炎瓶。1970年の見事な写し絵。なんかもう、凄すぎる。
ハーフの被害者安岡力也が好青年という、後の彼からは信じられない役処でこれが好印象。銃撃戦の後、彼がついに名乗り出た妹の有川由紀を射殺してしまうラストもまた唐突で凄い。心理的に推測すれば、ふたりで幸せに暮らす可能性がないから殺した(自分ももう死ぬ)という、ある種の無理心中のようなものなのだろうが、形式的には物語定型を転覆させて見事(二人でそこから逃げるだろう、普通)であり、この満足感が先に立つ。これも娯楽作ならではの無茶苦茶と云うべきだろう。
ダイニチ配映。Wikiによれば、アメリカ空軍立川基地は69年に飛行活動の全面停止が決定され、段階的な返還の後、77年に全面返還されている。映画で米軍の飛行機は飛ばず、雑草の繁茂した滑走路に入り放題の状態が垣間見える(それともあれは拡張予定地か)。顔アップの多い撮影は不満だが、梶が追悼のために脱ぐ帽子が画面を覆いブラックアウトするラストはやたら格好いい。ヘイトスピーチ蔓延の現代にこそ再評価されるべき秀作。
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