[コメント] the EYE 【アイ】(2002/香港=タイ=英=シンガポール)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
『地獄先生ぬ〜べ〜』の第何話か知らんが、とある女の子が皆の人気者になりたくて、トレーニングを積んで幽霊が見える様になるんだけど、今まで見えなかった幽霊に過敏に反応しちゃって、今までの日常が一気に幽霊だらけになっちゃうって話がありました。
まぁ要するにこの映画もそれと同じ様な話で、角膜移植したら前の人の見えていた事(=死者?)が見えた、と言う話。実話らしく、16年か14年前かに、角膜移植した少女が突然自殺したそうだ。その少女が何を見たのか知らないが、その話に刺激された監督が「こんなもんだったんだろ」って撮ったのがこの作品に違いないだろう。
っていうか、この映画、プロットすらまとまっていない。大体、角膜のドナーが元々何が見えて居たのか、と言うのは後に判明するのだが、結局「死の予知」なのだ。それ以上の事は説明されておらず、彼女が町で「気狂い」として毛嫌いされていた、と言う事しか知らされない。だが、主人公に見えていたのは、まんま幽霊で、この世に未練を残して逝ってしまい、その未練を晴らす為にこの世に居座っている、まぁ無害なのか知らんが、無害な霊なのだろう。刺激しなければ。そう、彼女は前の人が持っていた「今から死ぬ人が見える」と言う能力を遥かに超え、「死んだ人も死ぬ人も見える」と言う能力を手に入れていたのだ。なぜパワーアップしているのかは、不明。まさにミステリアス。
けど、よくわからない。まぁドナー提供者に「死ぬ人が見えた」と言う能力は別と考えて、なんで主人公に幽霊(書道教室)が襲ってくるのか。よくわからない。確かに見ている時は監督の見事な演出力でビビりまくって、鳥肌も立っていたが冷静に考えると無茶苦茶な話だ。
大体キャッチコピーにも、映画の冒頭にもあった「目を背けるな」は、洒落だろ、監督さん。それともただの皮肉ですか?盲目者に対する。
それから「見えたのは切ない恐怖」ってコピー。これは何ですか?確かに「助けたかったのに助け切れなかった」と言う思いが、主人公に恐怖の体験をさせたのだが、主人公、あんた死んだ人まで見てたじゃないか。それで「見えたのは切ない恐怖」ってアナタ・・・じゃ、エレベーターのおっさんも切ないのか?飯屋で肉嘗め回してた母子も切ないんか?やっぱメチャクチャだわ、これ。しかも、エレベーターで一つ階が飛ぶシーン。伏線ぐらい貼れよ。ご都合主義じゃないか。
監督の前作『レイン』は未だ未見だが、映像は素晴らしいらしい。本作の映像も凄い。持続する恐怖の緊張感。その演出力は特筆に値するもので、素晴らしいの一言。ただ、それはあくまで前半のみ、つまり「ホラー」である部分のみで、「インイン」と言う脳腫瘍を抱えた少女が死ぬシーン辺りから急速に失速し始める。
大体このシーンの前から気になっていたのだが、この映画の中での、シーンとシーンの繋ぎが極端に下手くそなのだ。突然タイミングを外されてシーンが切り替わる。中途半端な所で次のシーンに移行してしまうと、置いてけぼりをくらった気分にさせられる。どうして演出力がこれだけずば抜けているのに、こんな事に気付かないのか・・・・。
それから後半。完全に駄作である。前半の「ホラー」としての完成度は素晴らしく、恐怖演出は近年稀に見る演出だと言っても過言ではないが、後半は何を狙っているのか不明。泣かせようとしているのかもしれないが、こちらは前半を見て「ホラー」だと確信しているので、感情移入する暇などある訳も無く、主人公が一人で嘆いている姿を呆然と見つめるのみ。挙句、最後の最後に渋滞の車を吹っ飛ばして主人公にまた嘆かせる。明らかにミスマッチなCGでかっこいい映像を演出しているつもりかもしれないが、別にそんな物望んでいないし、別にカッコよくも無く、俺は違う映画を見ているのか、と疑問にすら思ってしまう。
なんで前半あれほどまで素晴らしいホラーを撮っておいて後半完全に別の方向に走らせるのか。後半には恐怖も緊張感も皆無で、だらだらと下手くそな感動ドラマを見せられた気分。挙句スペクタクルやられてもカタルシスなんてある訳無く、「監督、暴走してるなぁ」って関心すらさせられてしまった。よくここまでやるもんだ。
ただ前半以外によかったのは、「インイン」が死んだ後、一人で嘆いている主人公を見て「この映画、完全に終わったな」と確信した後に、「自分の顔が違う」事に気付いた時の主人公。それまで下手くそな感動ドラマを見せられて脱力モードだった時に突然舞い降りたスパイスで一気に目が覚めた。けど、物語が謎解きに徹していくにつれて恐怖もやはり冷めていく。
ラストのスペクタクルでは劇場を出ようかと思った。
どうして前半の緊張感を敢えて捨てて、下手くそな感動ドラマに走ったのか疑問。後半は『リング』か何かをパクって「泣かせ」を軽く入れたとしか見えない。しかも、一箇所、『ロミオ&ジュリエット』の中の「kissing you」のもろパクリの曲まで流す始末。ここまで来ると思わず声も出てしまった。「おいおい」と。いや、まじで。
ホラーと言うのは、「来る来る」とわかっていても、やはり怖い、と言う物なのだろうけど、それがあるのは前半だけで、後半には何も残らない。
プロットだっておかしい。なんで途中から出来の悪い『リング』路線に走っているのか。『リング』ですら謎解きシーンにも多少の緊張感が持続していたはずだ。他にも意味深なカットをそのまま最後まで放置したりする(例えばタイの病院での看護婦の目つき等)。
挙句最後に町を吹っ飛ばして、主人公嘆かせて、ドナーと同じ「悲しみ」を感じさせて観客の感情移入を誘う。アホか。
ただ主演女優の演技は凄かったね。新人らしいけど、かなり上手かった。
★2(前半は★5、残りは★1)
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