[コメント] 黒木太郎の愛と冒険(1977/日)
冒頭を見た時点で、もう少し映画製作の場面があるのかと思ったが、撮影現場のシーンと呼べるのは冒頭以外なし(撮影所でクレーンを運ぶ場面あり)。これにはちょっと残念に思う。
まず、特筆すべきキャラクター造型として、伴淳三郎に関連する人たちを挙げるべきだろう。伴淳は、借金の取立て屋だが、肝臓が悪く腹水がたまっており、まともな状態のカットがワンカットもない。伴淳の娘は、遠方の海に近いメチャクチャ貧乏な散髪屋に嫁いでおり、杉本美樹が演じる。杉本の旦那は、なんと岡本喜八。二人とも聾者だ。そして、散髪屋の2階には女教師が間借りしており、これが緑魔子。彼女は、狭い部屋で沢山の猫を飼っている。前半は、田中邦衛がこの大量の猫と緑魔子をどうやって追い出すか、というプロットに、かなり尺が割かれている。
こゝでも、緑魔子についてもう少し触れよう。まず、本作においても、緑魔子だけが脱ぐ。普通、お色気要員かと予想する、上に書いた杉本美樹にしても、田中邦衛の姉役の沖山秀子にしても、脱がないどころか、全く濡れ場がないのだ。また、本作の緑魔子は、上下の斜視がことさらに目立つ。これが、なんかたまらんセクシーなのだ。本作では、インテリで堅物、という設定のはずだが、やはり、いつもの通り、無垢なキャラにも見える。あるいは、林間学校で輪姦された先生という経歴も、彼女を無垢に仕立てているのだ。
さて、後半は、田中邦衛が自分の姪・鶴ひろみをトルコ風呂の女子寮から救出し、家族の元に戻せるか、というプロットになるのだが、救い出したと思っていた姪は「どうして自分の身体を使って働いてダメなの!」と云い、戻ると云うのだ。このシーケンスでの、横須賀駅のシーンの演出が、全編でも白眉か。停車中の列車への人物の出入りも見事だが、走る列車からホームを撮ったカットなんか凄い。列車一台借り切った撮影だろうか。
あと、重要な登場人物として記述すべきなのが、ガダルカナル戦の生き残りの元砲兵大尉を演じる三国連太郎がいる。森崎東の実兄(森崎湊)の著書「遺書」を携えた人物という、思い入れもたっぷりなキャラだろうが、彼をめぐるプロットは、ちょっとATGらしい頭でっかちなシーンになってしまったように思う。そして、もう一人、大人のオモチャの店をやっている財津一郎を挙げなければいけない。本来この人をもっと早く書いておくべきだったと思える(話の流れで、最後になったが)、要所で映画を締める良い役なのだ。彼の口癖は「所詮、ニワトリはハダシよ。」
#備忘でその他配役等を記述します。
・田中邦衛の家族構成で大事なところを上では書けていない。妻は倍賞美津子。田中の大きい姉さんは清川虹子(小さい姉さんは上に書いた沖山秀子)。清川のボーイフレンドに小沢昭一。
・三国の挿話で出て来る、飲み屋で賭けをする客たちは、火野正平、殿山泰司、井川比佐志。倍賞が家出して駆け込む待合の女将に赤木春恵。トルコのバックのヤクザ幹部は麿赤児。田中の姪役の鶴ひろみは、後に声優になり、声優としての方が有名ですね(本サイトでも声優としての仕事が3ページある)。
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