[コメント] 花影(1961/日)
ファーストカットは、銀座のバー「トンボ」の壁面看板(突出看板)の俯瞰。冒頭、客から女給と呼ばれた店の女たちが、「私たちはホステスよ」と云う。客(石田茂樹か?)は「じゃ最後の女給は、ヨウちゃんだな」と云うその葉子が、池内だ。バーテンダーは高城淳一で、店のシーンではよく目立つ。ホステスだと、中真千子が科白もある役。桜井浩子は科白なし。中盤で筑波久子も加わり、店を仕切る。
冒頭シーケンスの締め括りは、若いホステスたちとタクシーで帰宅する池内のシーン。坂の途中のアパート。部屋に入ってから、異様に細かく彼女の様子を見せるので、訝っていると、便箋に何やらしたため出す。こゝで小山田宗徳のナレーションが入り、彼女が書いているのは遺書だと云う。そして二年前に遡り、彼女の男性遍歴がつまびらかになるのだ。すなわち、池部良、有島一郎、高島忠夫、三橋達也との関係が描かれる。いや、もう一人、彼女が本当に信頼していた男性である佐野周二との関係も。
さて、本作も川島らしいシネスコの画面をいっぱいに使った、かなり極端な構図が多数出て来る映画だ。まずは、バーのシーンなどでの仰角ショット。池内が有島一郎に食ってかかり、ビンタされるシーンの仰角など。また、このシーンに続くのが、池内が高島に車で送ってもらう場面だが、こゝは俯瞰なのだ。しかも、運転する高島を右上に、しなだれかかる池内を左下に配置するが、二人とも顔半分近くが、フレームから、はみ出しているショットだ。あるいは、湯河原の旅館の場面で、左下に淡島千景、真ん中に池内、右の引き戸の窓に三橋、というショットを見せておいて、次に、どんでんして、左に三橋、真ん中に池内、右上に淡島というショットに繋ぐ、こゝも、シネスコいっぱいというか、人物が、はみ出した構図なのだ。
あと、面白い空間の見せ方で云うと、まず、池内のアパートが坂の途中にあるということは上に書いたが、アパート前に、目立つ赤い郵便ポストがあり、何度も俯瞰(アパートの窓からのミタメなど)で映るのだ。このポストは終盤で遺書が投函される道具立てになるので、意識的に使われていたのだろう。また、池内が信頼する佐野の家は、家の裏手に墓地があり、墓地は、お濠のような川の側でもある、という面白いロケーションだ。池内の科白で「十番」という地名が出て来るので、麻布十番の近くなのだろう。そして、池部と夜桜を見に行くシーン。出発前の科白で、今なら英国大使館、弁慶橋、青山墓地、という科白があるけれど、二人が行ったのは、青山墓地だろう。車のライトに照らし出された夜桜が美しい。池内が花を見て「食べちゃいたい」と云う。しかし、この美しい場面も、 死を導くサインなのだ。
というワケで、コメディタッチの全くない部類の川島作品で、ラストも余りに予定調和過ぎて、もう一つぐらい、ぶっ飛んだ展開があるのかと思っていたので拍子抜けしたキライもあるが、しかし、画面の面白さで云うと、やっぱり第一級の作品だと思う。
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