[コメント] 秀子の車掌さん(1941/日)
なぜかそういう批評にお目にかかったことがないのだが、この会社残酷物語に、軍国主義に対する成瀬の抵抗を読んでもよいだろう。「正直ってのは、一番気持ちのいいものだ」
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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田舎のバスとホノボノ風俗とくれば清水宏であり、成瀬はこの凸ちゃん映画を撮るにあたり清水を参考にしたに違いなく、およそ成瀬らしからぬ素人げなカット繋ぎも、深刻な展開にかぶさる呑気なBGMも、清水の影響下にある。
そうだとも、これは深刻な作品だ。最敬礼して社長室に入る藤原釜足の卑屈な運転手と、権威主義で出鱈目な勝見庸太郎の社長の関係は、どうみても軍隊の部下と上官のリアルな写実である。「会社のことを思うって云うより、自分の仕事を立派にやりたいの」という凸ちゃんの健気な思いはブラック会社=内務省の思惑にかき消される。バスが売り飛ばされたとも知らず、嬉々として名所案内を続ける凸ちゃん。ここまで構築した努力が水泡に帰するこの収束は残酷だ。ヤルセナキオの詠嘆はいつもにも増して強烈、呑気なBGMは対位法として残酷に機能しており、眩暈すら覚える。これぞ成瀬流の抵抗である。
なお、藤原釜足は不敬だとかいう内務省からの難癖で、この前年に芸名を改名させられている。成瀬も39年に『我等の友』(前進座初の現代劇)を内務省の命令で潰されている。ふたりは自らの不遇を記録することで、ひっそりとやり返したのである。「正直ってのは、一番気持ちのいいものだ」と。
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