[コメント] ウンベルト・D(1952/伊)
中でも、フェラーリ氏が住むアパートの描写がいい。彼の部屋の向いは、大家(マダム)の使用人マリアの部屋。各部屋の前の廊下のカットは決まってローアングルで見せる。これが奥行きのある画面で、廊下を歩くマダムたちのフルショットが活きるのだ。アパートの側には映画館があり、夜になると、映画の光や音が漏れて伝わって来る。あるいは、アパートの前の道は路面電車が走っており、窓から路面電車の光が入って来る。また、フェラーリ氏も使用人マリアも、窓から下を見るショットが何度も出て来る。路面電車に乗ったフェラーリ氏が、アパートの窓から顔を出すマリアを仰ぎ見るカットもあり、この高低の感覚も、画面に立体感をもたらしてる。マリアのベッドの上の天井が、ガラス屋根で、猫が歩く、といったカットも面白い。ちなみに、このマリアに関する細部の描写は、どれも魅力的で、例えば、キッチンで蟻を退治するくつかの行動を映す画面など忘れがたい。
また、アパート以外にも、フェラーリ氏が熱を出して運び込まれる病院というか教会の、ベッドが沢山並んだ奥行のある画面もいいし、屋外シーンでは、象の銅像のある広場や、犬に帽子を咥えて起立させ、物乞いをしようとする路上など、復興途中の町の雰囲気も上手く画面に取り入れられている。
さて、エンディングはどうだろう。犬の振る舞いは、いかにも作劇臭いというか、人間的に過ぎると私は思った(フェラーリ氏から逃げていく部分を指している)。もっと云えば、中盤の犬がいなくなって戻って来る顛末にしても、マリアがそのことに無頓着だったりして、プロット優先の描き方だと思うのだが、これは映画として受容できる範囲か。
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