[コメント] フォーエヴァー・モーツアルト(1996/スイス=独=仏)
まず、最初のオーディションシーン。こゝで監督ヴィッキーが「ノン」を連発するのが後半で効いてくる。その次の、道で車がエンコしている場面では、監督ヴィッキーの妻か、初老の婦人がいい雰囲気なのだ。二人が向かった食事会のメンバーは、娘のカミーユとその従兄のジェローム。そしてメイドのジャミラ。彼らは戦火のサラエボへ向かうと云う。ヴィッキーは止めようとするが、結局一緒に行くことになる。乗った列車はザルツブルグ行き。ジャミラが窓を開けると凄い風が吹き込み、轟音が響く。途中から徒歩になるが、監督ヴィッキーは、パーキングエリアで、トラックに乗って逃げ帰ってしまう。こゝの見せ方も上手いものだ。
カミーユ、ジェローム、ジャミラの3人は雪の残る山道や、湿地帯を歩き、カミーユが沼地で倒れ泥だらけになったりもする。このあたりから、とんでもない展開になっていくのは、コントのようだが、圧巻なのだ。川の側で爆撃を受けると、戦車3台が、画面に入ってくるのには驚かされるじゃないか。パルチザンの基地では、穴の前で服を脱がされる男女がいる。ジャミラは輪姦されそうになるし、カミーユたちが「お尻って、こんな目に合うのね」という科白を残して退場してしまうなんて!
続く、映画「宿命のボレロ」撮影パートは、どこかの浜辺を舞台とするが、やはりグダグダの場面が続く。倉庫のような場所に死体が転がっているのは、サラエボのパートと接続しているのか。カメラを回さない監督ヴィッキー。「フォード、ホンダ、黄色いリボン」という科白だとか「カメラ位置が決まらない時は、役者の正面だ。ジョン・フォード」という科白がある。えんじ色のドレスの女優に、強い風の中、「ウイ」の一言を何度も喋らせる部分は冒頭の「ノン」の連発に呼応する。砂浜をかけ降りる女優を俯瞰ぎみにとらえたショットは抜群に良いショットだ。
そして、完成した映画「宿命のボレロ」の公開風景があり、映画館の前で並ぶ子供たちが『ターミネーター4』にしよう、と云い、帰って行く。ラストはモーツァルトのコンサートで、「宿命のボレロ」撮影関係者も客として集まって来る、という展開だ。映画のアシスタントが有無を云わさず、譜面めくりをさせられるというのもコントのような演出だろう。見終わって、モーツアルトという役名の人物がいると気が付いたが、このエンディングは、本当のモーツアルトの演奏という意味だったのか。
この映画、相変わらずやりたい放題だが、それでもメチャクチャ面白い、という、もう完全に「芸」の領域だと思える。それにしても、サラエボパートと映画撮影パートの造型は充実感がある。傑作と云うべきだろう。
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