[コメント] エンペドクレスの死(1986/独=仏)
通常映画に期待される活動的要素は悉く排除され、逞しく寛容なシチリアの山野と風と陽、洪水の如く押し寄せる詠嘆的ダイアローグだけで構築された、これぞまさしく「直立不動の映画」、或いは現代人に架された「労苦」である。
正直、拷問かと思うたのだが、我慢して耳を傾け続けていると、ヘルダーリンの言葉の持つ美しさや、説かれる理念の崇高さに気付くことが出来、民衆がエンペドクレスに許しを乞う立場に転じる最期の対話では高揚感さえ覚えてしまう、というのだから、実に不思議なものだ。
嘲笑を嘆き、輝ける青春を維持したまま自死、それもエトナ山頂での、を選んだ聖人エンペドクレスと、「裁かれる」ことに怯え、他者に先んじて自らを裁くことでそこから免れようというカミュ『転落』の主人公、アムステルダムの底で酔いし痴れている元弁護士、との共通点・相違点について考えてみるのも一興。
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