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[コメント] キートンの強盗騒動(1921/米)

これ大好き。メッチャ面白い。原題は「山羊」。この「GOAT」は、最近よく使われる「史上最高」という意味ではなく、「生け贄」や「身代わり」のことだ(当たり前か)。
ゑぎ

 本作のキートン自身の役割が「身代わり」なのだが、それだけでなく、画面の中に、フェイクやダミー、本物と偽物といった、あるものだと思っていたら実はそうではなかった、みたいなモチーフが次から次へといっぱい出て来る。この面白さがちょっと比類ないレベルだと思う。

 具体例をあげよう。開巻は壁の窓とキートンの後ろ姿。窓からパンが渡される貧者救済所のようだ。列の後ろへ並べと促されたキートンは最後尾に着くが、そこは洋服屋の前で、キートンは紳士服を着せられたマネキン2体の後ろに並ぶ。マネキンに気付かず、いっこうに前に進まない、という演出。次に、道に落ちていた蹄鉄を投げて警官にぶつけたことで、追いかけ合いが始まる。この結構長い追いかけ合いで、自動車の下に隠れたつもりが自動車が動いたり、といった部分も、フェイクのモチーフと云えると思うが、最も瞠目したのは、広い道路の画面手前にキートンがいて、奥の遠いところから3人の警官が手前に走って来、その両者の間を唐突に汽車が横切って行くといった思いもかけない見せ方だ。あるいは、キートンが動き出そうとしている自動車の背部スペアタイヤの上に乗るが、それはスペアタイヤではなく、路上の看板で、自動車だけ画面奥へ去って行って しまうといった演出も実に鮮やか。

 他にも、序盤で「デッド・ショット・ダン」と字幕が出て刑務所内の写真撮影シーンとなり、画面左手前にカメラマン、中央の椅子に囚人のダン、右奥の格子窓の向うにキートンという配置のショットが出て来る。このショットが意外なかたちで後半になって、「身代わり」として活きて来るというのが上手い。この時撮影された写真が街中の壁に大きなポスターとなって貼りだされる。その画面は、ファーストショット(壁の窓)を思い出させもする。また、落ちていた御婦人用の黒い襟巻を使って、写真の顔に髭を作る演出もケッサクだ(これも偽物のモチーフ)。

 そして、中盤に登場した犬を連れた婦人−ヴァージニア・フォックスと大男の警察署長−ジョー・ロバーツも絡めた、エレベーターを舞台とする終盤のドタバタ演出もとびっきりぶっ飛んでいる。これは満足度の高いエンディングだ。こゝでも、エレベーターの階表示機(時計みたいな針のあるやつ)を使ってエレベーターの運行制御を行うというナンセンスな(価値転倒と云ってもいい)フェイク・モチーフを押し通す。

 さらに、ラストシーケンスの中で、全編で1回だけの、対面する人物による切り返しがある(テーブルについたキートンとロバーツが目を合わせるのをショット、リバースショットで繋ぐ)。また、全編でキートンの身体能力が一番発揮される運動も、ロバーツから逃げるために、ジャンプしてドアの上の窓を突破するショットだと思うし、収束はあくまでもキートンとフォックスの恋愛モチベーションであるというのも私にとっては、ポイントが高い。警察署長のロバーツや、デッド・ショット・ダンが結局最後どうなったかを描かないのもナンセンスさが増幅されて良いと思う。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・デッド・ショット・ダンは、共同監督のマル・セント・クレアが演じている。キートンが電信柱を背に上着を着る場面の警官はエドワード・F・クライン

(評価:★4)

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